華麗なる加齢臭

ザ・レポートの華麗なる加齢臭のレビュー・感想・評価

ザ・レポート(2019年製作の映画)
4.7
【9.11とベトナム戦争と大統領選挙】
2001年に世界を震撼させた9・11同時多発テロ。アメリカはもとより世界に衝撃を与えた事件の裏にはCIAの捜査という拷問があった。この作品は、5年間の歳月をかけ、その拷問の全容をレポートにまとめた、アダム・ドライバー演じる上院議員スタッフの物語。
映画好きなら、初めて見たとしても既視感があると思う。古くは「大統領の陰謀」、最近では「スポットライト」などの、事実を元にし真実を伝えることを主題としたサスペンス仕立ての作品群が持つ、あの息が詰まるような空気感が伝わってくるからだ。

さてこの作品で考えさせられたことを、思いつくままに羅列する。

第2次世界大戦後に軍事力、経済力で世界を席巻した米国。この米国の戦後史において、ベトナム戦争で多くの国民の心に深く傷を残した。そして同様に9.11もとてつもない傷を与えた。
ベトナム戦争の傷はあまりにも大きく、ディアハンターや地獄の黙示録はあったものの、住民の虐殺などリアルなベトナム戦争の「闇」を初めて取り上げた作品は「プラトーン」であり、終戦から10年以上の歳月を必要とした。
同様に9.11をテーマとした作品も、数多く生まれているが、テロが起きた2001年から15年以上を経過し、ようやくテロに関連した米国の「暗部」が取り上げられるようになった。

この作品で扱われる「闇」はCIAの拷問が中心であるが、傑作TVシリーズ「倒壊する巨塔ーアルカイダと『9.11』」への道」(2018年)が描いたCIAとFBIの縦割弊害、いわば縄張り意識でが原因で防ぐことができなかったことにも若干触れている。遺族や関係者にとっては、耳をふさぎたくなる事実だが、映画やドラマとして扱われるには、15年以上の月日が必要だったことを実感した。

「倒壊する巨塔ーアルカイダと『9.11』」への道」もこの作品も、CIAは悪の組織として描かれる。そして本作では、拷問の直接的な責任者である女性所長が、後のCIA長官になる旨が伝えられるが、これは2018年5月に長官に就任したジーナ・ハスペルのことである。

ジーナ・ハスペルを指名したのは、ドナルド・トランプ。2020年大統領選の一年前である2019年に、「トランプが選んだ長官は、ここまで酷い非人道的だ」というメッセージを含んだ映画が作られたのだが、それは偶然なのか、それとも意図があったのかは分からない。また、舞台はオバマ政権下となっており、登場人物は大方民主党関係者であることも間違いない。
私は反トランプであるが、熱狂的なトランプ支持者にすれば敵陣営の息がかかったプロパガンダに思えるだろう。それほど政治色の強い作品だ。