五つの国に散らばった龍の玉を集める冒険活劇。プリンセスもの特有のミュージカル要素こそないが、アクションは迫力満点である。また、東南アジアの国々をベースにした世界観もたいへん魅力的である。
ラーヤと道中で仲間になる者たちは疫病により家族を失っており、冒険のなかで身を寄せあい、家族のような愛情や信頼が芽生えていく過程がしっかり描かれていてハートフルなことこの上ない。特に料理の味付けを通じて互いの違いを理解し合う様子が印象的だった。
ラーヤはナマーリに裏切られたことがトラウマとなり人を信じることができない。基本的に相手を疑ってかかるプリンセスとは対照的に家族を信じたことで世界を救ったシスーは疑うことをまるで知らない。
この疑いのもとになっているものの正体は偏見である。『ズートピア』でも描かれた偏見や差別。物語が進むにつれてラーヤもナマーリも互いに強い偏見を持っていることがわかる。
互いを信じることが世界を救う。そのために自分から一歩を踏み出したラーヤ。
本作に明確な悪役は存在し得ない。五つの国はそれぞれ自国の利益や立場を優先して行動している。その結果として争いが生まれているわけだが、悪意をもって傷つけたり、独り占めしようとする者はいなかった。
余談だが、東南アジア発祥の異種格闘技戦がすこぶるエキサイティングであった。
ラーヤはシラットの使い手で短剣を用いる。軽やかなフットワークで積極的に攻撃を仕掛けていたのが印象的だ。
そして、ナマーリの古式ムエタイである。武器を携帯しているときも前蹴りや足払いを多用しており、素手の取っ組み合いの際にはムエタイの回転肘や回し蹴りを披露していた。
麗しきプリンセス同士、感情を剥き出しに洗練された格闘技術を披露する様子もまた本作をシンラパ(芸術)たらしめている。