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辰巳のRenのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
4.0
面白かった。『ケンとカズ』は未見なのでこの監督のことは何も知らないけど、低予算でも(低予算だからこそ、か?)人の物理的な痛みと向き合って暴力を撮れる作家の映像をスクリーンで観られてとても嬉しい。

『チェイサー』等のナ・ホンジン作品や阪元裕吾作品のようなバイオレンスのジャンル映画を、『レオン』や『アジョシ』の文脈に乗せたような出来栄え。インディーズ映画だけど「このチープさがいいね」というエクスキューズありきの褒めではなく、画面を毎シーンでリッチに仕上げようとするネジ締めが為されている。だからずっと観ていられる。

汗と血と煙草とオイルと土の匂いが全編に立ち込めている。ちゃんと汚れられる俳優がちゃんと汚れる。これより何倍も予算をかけた商業映画では謎の忖度が働いて綺麗に(嘘くさく)なってしまう部分を作り込んでいるので、人が突き飛ばされたり刃物で刺される痛みの実在感も上がっている。
血気盛んな未成年の女子も、肉体的には成人男性に敵う訳がないのもリアルだ。髪を掴まれ引き倒される描写に嘘が無い。
徹頭徹尾うるさいのもポイント。罵詈雑言が四方八方から飛び交いまくる。コミュニケーションに、舐められないように相手を威圧する以外の意味を知らぬまま過ごしてしまった人間たちの世界だ。

ロケーションもいい。自動車工場、廃車後、波止場に中華料理店とこの手のアングラ裏社会ものの定番を押さえ、作品の暗さ・汚さを下支えする。

カネの価値が人命を上回る、常識の通用しない裏社会の逸れ者しか基本出てこないが、主人公でさえそのバックボーンが語られない。堅気の社会と接続できなかった人間はなぜそこで生きていくことを決めたのか、社会は彼らをどのように見て/語るべきなのかを描く作品がここ数年で散見されるようになったが、今作はそうはならない。言うなれば初めて選択的に一緒にいようと決めた人と一緒にいられる喜びと意地を獲得した主人公のドラマではあるだろう。
が、所謂「社会派」の文脈には乗らず、あくまでジャンル映画としてバキバキに走り抜くぞという気概、前述のようなネジ締めをすれば映像作品として眼福なものが観られるという改めての気づきが嬉しかった。

その他、
○ 森田想、絶対見たことある....とは思っていたが、『アイスと雨音』の主人公だった!どこかでメジャー作品のキーパーソンとして出て売れてほしい!後々今作の評価も上がるはず!
○ 藤原季節の使い方すげぇ....としばし呆然としてしまった。
○ 多分10秒くらいしかまともに映ってないけど、阪元裕吾組でお馴染みのあの人いたよね?
○ オープニングクレジットが渋い!かっこいい!
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