華麗なる加齢臭

すばらしき世界の華麗なる加齢臭のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.9
【良かった、でも本当はもっとダラダラ生きてほしかった】
「ヤクザと家族」同様、ヤクザが生きづらい世の中で、「更生」あるいは「更正」しようとする姿を描いた作品です。

役所広司は存在感のある役者ですね。その芝居に引き込まれます。
ただ、この作品もそうですが「孤狼の血」や「日本のいちばん長い日」など、最近の役所広司が演じるキャラクターは、皆、暖かく人の良さを持ち合わせ何となくワンパターン。今回は、あの問題作「シャブ極道」で見せたチンピラ感が少し垣間見られましたが日本を代表する役者なので、もう少し幅のある芝居を観たい気がします。

反対に光っていたバイプレイヤーは、ケースワーカー役の北村有起哉ですね。先に書いた「ヤクザと家族」では衰退の途にある組の若頭役が北村です。両方観た方には、その役作りに驚いたのでは。「新聞記者」でのキャップ役といい、まさに名バイプレイヤー。役所とはまた違った存在感があります。

とても良い作品でしたが、それゆえに何点かひっかかりました。
最初は「免許取得費用」。課題とされた生活保護受給者の運転免許取得費用、橋爪功演じる弁護士が全額寄付をし解決されるのです。
しかし、保護受給中に他者から免許取得経費を受け取れば、ケースワーカに報告し収入認定し保護減額でしょう。それを怠れば「不正受給」となります。また、報告をしたにもかかわらずケースワーカーが黙認したのであればケースワーカーが懲罰の対象になるでしょう。

すでに介護施設に就労をしていましたが、時給と勤務時間から考えれば、給与分が収入認定され減額はされていても、保護は受給中と想定したほうが自然です。故に、あえて免許は取らない方がストーリーとしては良かった気がします。

また、この作品では服役を終えた、三上の周りには、ほんとにいい人ばかりしかいません。その点も違和感がありました。三上がどんなに人間的な魅力があっても、あそこまで、人を引き付け周りに支援者しかいないなんて、あまり考えられません。

そして一番違和感を感じたのは、三上の死です。
語弊を恐れずに言いますが、三上は高血圧ゆえ、心筋梗塞か脳梗塞で亡くなるのですが、周りの声を無視し言い換えれば「無理」をして死ぬわけです。つまり、「実直」「(良い意味での)バカ」なんですよ。

死を持って終焉。本人は良いかもしれません。しかし、残された周りの支援者や友人、食事の約束をした元妻はどうなんでしょうかね?
実直で愛すべきバカ、その本人の死により、周りの人間の暖かさで築かれた「すばらしい世界」終焉なんでしょうか。
本当は、生業につき保護から自立しても、再度体調が悪化し、保護を再受給する、そして、だらしなさから、周りに人間からも時に呆れられる。そうやって、ダラダラ生きていく。それが私たちが生きているリアルな「すばらしい世界」だと思うのです。