強い

由宇子の天秤の強いのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
3.8
ジャーナリズムと正義と嘘、そして本性。

生徒と教師が関係を持ったとマスコミが騒ぎ噂が流れ双方が死んでしまった事件を追いかけるフリードキュメンタリー監督の由宇子。
自身の正義の信念に基づいて、作品を制作するが、やはりマスコミ上層部の一声で潰されてしまう。
「本当の事を言えるのはカッコイイことだと思う」と、更に掘り下げた作品を撮る中で、自身が当事者となる事件が発覚する。

『由宇子の天秤』というタイトルは秀逸だと思う。常に自分にとって少しだけ重い方を取捨選択する由宇子の、正義の名のもと行われる自己中心的で傍若無人で心のない行動の数々。狂いが無い。

由宇子は正真正銘のクズなんですよ。
ただ一概にクズと言っても“立ち回りの上手いクズ”ってのが居る。人の懐に入り込み、心を開かせ、思い通りの画を撮る。どうしようもないのに、どうしようもなく共感してしまうような。

保身の為の小さな嘘、いや、それよりもっと自分の望みを叶える為の小さな嘘。嘘と嘘と嘘をつなぎ合わせてあたかも真実のように見せようとするその姿は、マスコミの在り方として許せないのに、自分の身にだって嫌というほど覚えがあるムズ痒さ。パズルのピースを集めて、正しさよりも魅力的なエンドを作る。
本当の事を言えるのはカッコいいけれど真実なんてあってないようなもの!だよ、と叩き付けてくる。

どれだけ親切にされようと、どれだけ愛おしい時間が訪れようとも、由宇子の天秤が掲げる方は捨て置く。由宇子は自分の身を賭けても作品として刻むことに重きを置いた。
親や若者の人生も、今まで散々見てきた残され巻き込まれた家族の人生も、由宇子にとっては、掲げられたほうの受け皿だ。
自分が死んでも刻まれる“作品”を残す気でいるその本気と図々しさ。
ピコン、と聞き慣れた音。

あ〜ぁ、どれだけ何かを追い掛けたって、近くにいたって、自分以外の魂の事なんて一生「分かってる“つもり”」にしかなれないんだろうな。


あと、これは本筋には関係無いのだけれど、基本的にボソボソと話すセリフの音量はその芝居の自然さ故にかなり小さめなので、結構大きめの音量で視聴していたら、掃除機をかける音が爆音で流れて寝ていた鳥が起きました。
木下塾、経営は大変かと思うけれど掃除機は買ったほうが良いね。
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