タキ

エルヴィスのタキのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.9
主役のエルヴィスのキャスティングが難しい選択だったのは想像に難くないが、冒頭、エルヴィス・プレスリー本人の映像からオースティン・バトラー演じるエルヴィスに繋げ、ラストはまたオースティンからエルヴィス本人の映像に繋げてまったく違和感がない。よく見ないとわからないほどだ。若い頃のエルヴィスの歌唱についてはオースティン・バトラーのものを使用していたようで、これも上手い。プレスリーの有名な楽曲はもちろん劇伴も乗れるし、テンポのよい編集も見やすい。ただ駆け抜けた感が強くて時代の寵児の側面は見えたが彼自身の内面への掘り下げは少なかったように思う。しかし物語はエルヴィスのマネージャーだったトム・パーカー大佐が脳卒中で亡くなる直前の回顧の様相で描かれるためそれも致し方ない。
見て楽しんでよいかどうか迷うものが人々を熱狂させるという独自のマネージメント法が面白い。エルヴィスが熱望した海外公演を警備の問題だとか言っては邪魔していたのも、実はパーカーがアメリカ国籍を持っておらずパスポートがなかったことが原因だが、結果的にはラスベガスに行かないとプレスリーが見られないということになり世界中のファンに渇望を与えることで、より熱狂が増したのではないかと思う。なんでも興行というのは打てば打つほど赤字になるらしくグッズ販売がかなりのうま味になるというのは現代も同じだと聞いたことがある。あのクソダサクリスマスセーターはいったいいくらで売られていたのか。ワタシもそこでしか買えないグッズにうっかり財布の紐がゆるみハッと我にかえるととても通常では使用できないダサいグッズをずいぶん買ってきた。こういうやり方はパーカー大佐が元々の発案者なのだろうか。そうだとするとエンタメ界における錬金術師としては破格の人物だ。
エルヴィスとパーカー大佐との関係性はマネージャーとタレントを超えた振り払っても振り払ってもついてくる親子関係に似た情だったように思うが、それとともにパーカー大佐の興行師としての才能を功罪とりまぜてもっと掘り下げて見たかった。
タキ

タキ