幽斎

ドリーム・ホースの幽斎のレビュー・感想・評価

ドリーム・ホース(2020年製作の映画)
4.2
競走馬を育てたい平凡な主婦の挑戦が、裏寂れた村に希望を取り戻す奇跡の実話を描いたインプレッション・ストーリー。MOVIX京都で鑑賞

2015年「運命を分けたザイル2」Louise Osmond監督でサンダンス映画祭ワールドシネマ部門で観客賞を受賞したドキュメンタリー「Dark Horse」劇場映画化。私は一切ギャンブルをヤラずの人生なので、劇場で観た後、馬に詳しい友人と観たが、実話とドキュメンタリーで結末が解ってる映画は見ない(ディズニー)主義で「どうせベタな展開なんだろ」斜めに構えたが、競馬ナレッジ「0」の私でも意外と楽しめた。

友人は馬好きと投資目的で「一口クラブ馬」、馬に出資して黒字が出る確率は15%位、基本的に元本保証ゼロ。しかし、GIレースの1着の賞金1億円なら8着でも600万円を手にする。コレを「ロマン」と言う(笑)。私のソニー株が老後資金なのと似た様なモノか?。イギリス映画故に抜かり無く、実在の競走馬で史実通りに描かれたと友人は満足してた。レースシーンは迫力も有り、予想通り「ベタな展開」馬まっしぐらですが、歓喜の瞬間は正にドリーム・アライアンス、夢の結実だった。

競走馬に夢を託すのは、言い変えれば子供に将来を託す様なモノで、子供を応援する事で夫婦の人生に活力が生まれ、些細な出来事にも幸せを感じる、失敗は人生の教訓にも成る、周囲も応援する事で元気を貰える。友人に依れば競走馬で結果を残して余生を過ごせるのは、洪の一握りだと言う。馬は本来「走る為に」産まれて来た動物。為らば走る姿が美しく輝くのも当然なのだ。

イギリス競馬は12世紀から始まる近代競馬発祥の地で、日本で言うと鎌倉時代まで遡る。年間の観客動員がサッカーに次ぐ人気スポーツとは知らなんだ。Bookmakerが仕切るので、日本の競馬とかなり違うらしく、戸惑うのでは?と懸念も示した。私の様な競馬オンチも無問題、ビギナーの方も安心して観て欲しい。物語は王道の王道の結末アリき、人生にヒネくれた感情の持ち主にはお薦め出来ない(笑)。人生の峠を超え、余生には早いが「死」と言うゴールが待つのみの老後に馬を育てる目標が、人生に再春館製薬のドモホルンリンクル並みのツヤとハリが蘇るだろう。

鑑賞前は「競馬は金儲けなのか?」ソレを言っちゃお終いよ的なテーマと想像したが、レトリックは馬を共同所有する難しさも説うテイスト。御陽気に馬を我が子の様に育てる事がハッピー!、ディズニーのお花畑では無い事に安堵した。一口馬主と共有馬主の違いが分らない私に、友人が溜息交じりに講釈したが、共有馬主は複数の馬主で出資比率に応じて保有。一口馬主は金融商品化したファンド出資者の扱い、厳密に言うと馬主では無い。馬代金や維持費を払う点では同じでも、共有馬主は馬主として扱われるので、競馬場で馬主席や駐車場が使える、厩舎エリアにも出入りする。馬主資格は手取り年収500万円位で取得可能、興味の有る方は狙える人も多いのでは?。

経験が有る人は分かるらしいが、初期の衝動は賞金と共に揺らぐそうで、実際の人生でも、結婚して子供が出来て子育てが終わり子供が家から離れた後、仕事が定年に成ると今度は親の介護が待ってる。趣味も無い仕事人間の夫は妻に邪魔者扱いされ「俺の人生は何だったんだ?」ふとギャンブルの沼にハマる。誰で有ろうと必ず「死」と言うGOALが待ってる。人生の行く先が見えてしまい不安に苛まれるが、本作は「心の舵取り」次第で、その行く先は幾らでも変わるのだと、貴方の背中を静かに押してくれる。

「実際のドリームアライアンス号」2001年生まれの牡馬で後に騸馬。父はノーザンダンサー系、母父はリボー系で「ノーザンダンサー+リボー」競馬ファンには有名。ジャンとデイジーは350£でルーベルを購入、年間15000£掛かる試算でシンジゲートに23名が参加、映画では12人が登場。3歳の時、2004年11月10日初戦に4着、4戦目でチェプストウ競馬場で勝利。スランプに陥り2007年2勝。翌年は安楽死から逃れる治療に15ヶ月のリハビリの末に復帰を飾る。2009年4分の3馬身差で勝利。2010年グランド・ナショナルに出走を果たすが、肺の疾患で中止。その後、勝利する事は無かったそうです。

本作を「偽善ドラマ」と言うのは容易い。素人の思い付きを実現する過程がいい加減に見える、金儲けなのに善意のお金と言う違和感も抜けない。競馬は馬を鞭打って虐待して成り立つスポーツ、ソレを見世物にして金儲けする人間のエゴの塊。動物愛と言う錦の御旗の下、エセ感動を押し付ける本作は、人生のセカンドチャンスを馬に置き換え正当化。夢も希望も無いオチだ。こんな風に考える人こそ夢も希望も無い人生だと思う。

スポーツの良い所は、テレビのクイズ番組の様なヤラセでも無く、勝つ為に選手が真剣に競技に立ち向かう姿勢に私達も感動を貰い、明日への活力に繋げる。割と崇高な気もするが、お馬さんは長くても5年らしく、寄り添える時間に期限が有るのは野球やサッカーとは違うセンテンス。現在は「出資馬」形式で馬主気分も味わえる「馬の名前を考えるのが楽しいんだよ」正に子供と一緒。Paper Owner Game仮想馬主として楽しめる一種のゲームも有ると、必死に友人が勧誘してくる気も。ヤラないよ、私は(笑)。

共馬馬主は馬を引退させる以外に放棄は出来ない。競走馬の引退は言葉以上の意味が有り、農園とか有れば引き取る事は可能でも、一般的には莫大な費用を掛けて処分。生殺与奪の権利を人間が握る責任感も生まれる。人生のターニングポイントで何度も味わった自己決定と言う連鎖にも向き合う事に為る。だからこそ、ウェルシュナショナルでの興奮が自分事の様に感じるのだと思う。

自ら決断した道に寄り添う人達、時間を共有した価値観の先に有るモノを問い掛ける。
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