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なぜ君は総理大臣になれないのかのnatsumeのレビュー・感想・評価

3.2
2020年6月、緊急事態宣言があけて最初に見に行ったドキュメンタリー映画。ポレポレ東中野に緊張して出かけたのを覚えている。

ちょうどこの前の年ぐらいから国会で存在感を増してきていた小川淳也の政治家人生17年間を、妻同士が高校時代からの友人というつながりの大島新監督が身近で撮り続けた作品で、希望と使命感に満ちた青年政治家が「党の大人の事情」などに翻弄されながらも愚直に国民のための政治のあるべき姿を求めてもがき続ける姿を描く。

幼い子どもだった娘さんたちが成長して選挙活動を手伝っていたり、小池百合子という裏切り者の政治家がいかにえげつないかというところが非常に生々しく描かれていたり、退屈はしない映画。企業の接待で料亭ざんまいしている議員さんとは比べ物にならないような質素な暮らしぶりに「こんな政治家いるんだ…」と、もともと「政治家なんぞ大抵腐っている」と思ってきた私的には逆に目から鱗という感じだった。こんなピュアな政治家がまだ絶滅してないのか!という衝撃を感じつつ、でもこういう政治家が報われない日本という国の精神的な貧しさに、心がアップダウンしてしまう作品だった。

見終えてまず「たぶん大学の先生とかのほうが向いてるな」「政治家としてはピュアすぎてクリーンすぎるんだろうな」と思ってしまい、それから「政治家がピュアかつクリーンで何が悪いんだよ!私のバカバカ」と自分を殴りたくなりました。それぐらい、日本人って「政治家は腐ってるもの」「裏ではヤクザみたいな力を持っててなんぼ」みたいな価値観を受け入れてしまってるんだと思う。反省しきり。

映画がロングランを続ける中で小川議員も一般市民とのオンライン対話を始めたりと露出が増えて、メジャーな議員の一人になったと思うが、それでも総理の道ははるかに遠い。次の選挙も保守的な地元で無事に戦い抜けるか微妙なところだと思う。メジャーになることでアンチも増えるだろう。

私は選挙区民じゃないので何もできないけれど、でも自分の目が黒いうちに、棺桶に片足突っ込みながら袖の下の札束数えているような政治家がみんな逮捕されて、与党にせよ野党にせよ若くて未来のことを真面目に考えている人たちが「政策を戦わせて国の方向性を決める」というまともな国会運営が見たいんですよ…ペッパーくんに原稿読み上げさせた方がまだマシじゃないかみたいな現首相の会見(という名の朗読会)を見るたびに「自分の言葉でしゃべれなくても首相やれる国なんてほかにある?」と思っちゃう。

そういう意味で、どういう党を支持してる人でも見てほしい作品だなと思う。人間の会話が成り立たない政権与党の年寄り連中やお飾りタレント議員が一掃されて、こういう弁舌さわやかな議員さんたちだけのまともな政策論争をやるとこが見たくなると思いますよ、ほんとに。生きてる間にそういう光景が見られたら国の未来も期待できると思うんだけどな。

素材で勝ってる映画ではあるけれど、でもインタビュー頼みではなく選挙の裏側などもきちんと取材しているのでまともなドキュメンタリーです。佳作。
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