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空白のshineのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.7
𠮷田恵輔監督の「ミッシング」公開前に感想書かなきゃ!と思い立って記録。
公開から3年経っても語れる印象深さ、自己最高の邦画と言える作品に出会えた幸せに感謝。

物語は、古田新太演じる父親の「怒り」が中軸となって展開。娘の事故に関わる、いや娘に関わる全ての存在へ容赦なく向けられる「怒り」。
今まで全く娘に関心を持ってこなかった男から溢れ出す怒りの源泉は、二度と取り戻せない「喪失」から来るものなのか。周囲に向けられる怒りの奔流に巻き込まれ、日常を乱され壊れていく人たち。

終始ずーっと、胃がキリキリする、この救いのなさに観ててめちゃくちゃ神経が擦り減り疲れていった記憶があります。でも一場面一場面に集中するんですよ。これはドキュメントとして観せる監督の手腕でしょうか。
映像作品と知っていながら、リアルさがあるので説得力があるんですよね。だからのめり込んじゃう。

でも自分の心がキツい。それで作中で求めるんですよ、安息になる言葉や行動を。
そのひと言をくれた人物が中盤の、通夜の場面で登場するんですが、そこが一番心に残った場面でした。
求めたひと言…とは、この救いのない作品の中で、唯一といっていいほど相手の気持ちを思いやって放たれたひと言。ですが、それが本心ではないと直ぐに分かるんですね。
貴女の心の中も怒りが渦巻いているでしょう、と。観てるこちら側が欲しかった言葉を得ても、その言葉には何も宿っていない、表面的なものでしかない事実を感覚で理解し、背筋が凍る思いでした。凄い…。

この作品を通して、全般に感じたのは誰もが自分の考えや思いを他人に押し付けて生きている、ことでした。中心人物や話の本筋がそこから逸れないので、明確に伝わりました。
しかしそんなことをしても誰も救われていないし、押し付けた相手を悲惨な状況に追い詰めてしまっている。

主人公の古田新太演じる父親しかり、誇張強めと感じましたが事件を追い回すマスコミしかり。最終的に父親は事実を自分(たち)の都合で捻じ曲げます。マスコミも報道の中に大衆へ与える印象操作がはっきりと見て取れます。(当人たちは認めないでしょうが)それは自分たちの思い描く像を作り出すことに明確に関与しており、全くの部外者である大衆が断罪の行動…誹謗中傷に動きます。
いや、あんたら事実も知らずに関係ないじゃん、何で他人を追い詰める権利があるの?と憤りを感じましたが、当事者たちが自分たちの正義感を基にして口撃・攻撃を続ける姿は、相手のことを知ろうとせず、一片の情報で判断して攻撃に至る病いを明確に描き出しており、過去から続く人間の弱さを否応なしに訴えてきます。自分も同じような行動をとる可能性があるのでは?と心に問いかけずにいられませんでした。

批判や意見を挙げることは悪ではなく必要なことです。そこには相手の立場も考えながら言動で表すことが絶対条件なのです。
一方通行な口撃は極めて次元が低く、生み出すものもポジティブなものではありません。

そうならないためには、自分の周りの人との関係性を大切にすること。作中で明確な救いは描かれてはいませんが、登場人物が微かな救いを感じられた場面は、いずれも他者からでした。

最後に、登場人物について。寺島しのぶさん強烈すぎです!こんな人いたら辛すぎる。自分中心の善意の押し付け!寺島しのぶさんに罪はないけどとても気持ち悪い…。(褒め言葉)
そして今までも大好きだった桃李くん。本作で、「陰鬱とした役の松坂桃李」を観ることが大好物ということに気づかせていただきました!笑 表現が凄すぎる!最高にゾクゾク!
そしてその後に流浪の月を観るに至るのでした…!笑
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