リプリー

サン・セバスチャンへ、ようこそのリプリーのレビュー・感想・評価

3.9
ウディ・アレン監督の新作(といっても本作の制作は2020年と少し前)。
ウディ・アレン監督はインタビューで度々映画をコンスタントに撮り続ける理由について「現実逃避のため」と語っているが、本作を見ていると改めて納得させられる。
ストーリー的にはうまくいっていない現状の生活を忘れさせてくれる旅先でのちょっとしたロマンスを描いた全く持って平常運転のアレン映画だが、もはや「こんな元ネタ誰も見てないよ」と思う(アレンが大好きな)クラシック映画のパロディをここぞとばかりに入れ込んできていて、さぞかし撮るのが楽しかったであろうことは想像に難くない。
ちなみにこの元ネタ、正直に告白すれば見たことがあるのは「市民ケーン」「突然炎のごとく」「8 1/2」「勝手にしやがれ」くらい。アレン先生すみません!
とは言え、さすがにベルイマンの有名すぎる海辺でアレをする場面なんかは知っていたわけで、見たことなくても知ってさえいれば楽しめると思う。もうそのまんまな訳だし…なんて観客がいることにアレン自身はたいそう嘆いていて「それでもいいもん! 俺が好きなんだから(撮りたいんだから)!」と堂々と胸を張ってるに違いない。


※以下ネタバレ気味※
そんなわけで笑わせてくれるという意味では少し物足りなさを感じたが、若い女医にのぼせ上がる主人公は実に滑稽で、ラストに死神が語る(それを演じるのがクリストフ・ヴァルツ!)内容はアレンらしさ全開でまったくその通りだと思う。
先ほど平常運転と書いたがラストに主人公が一時的にのぼせたがってもそれをあくまで活力と割り切れるところは監督の“新しい余裕”を感じた。

それはさておき映画館初日ということもあってか、意外なことに結構な埋まり具合で、頭は真っ白か肌色のご高齢の方ばかり。おそらく僕が一番若かったであろうことは自信を持っていえる。でも若者なりにクラシック映画の魅力、それなりに分かっているつもりですよ! とだけ言っておこう。