まっちゃん

ドライブ・マイ・カーのまっちゃんのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
5.0
こんなテンポよくて、原作と違った味と深みのある会話劇久々見た。

登場人物たちも劇中で会話劇をする役者だが、そもそもこの映画自体が心内文的独白のない会話劇になっている。
このメタな入れ子構造がかなり面白く効いていると思う。

原作ではもっと女性ドライバーに焦点が当たった造りになっていたと思うが、映画ではすべてのキャラクターがとても魅力的に映る。

我々の言語によるコミュニケーションとは、本来劇中で展開される外国語による会話劇くらいわけのわからんものであって全然相手の言っていることなどわからないもの。
会話ですらわからないのに、人と人、まして恋人や夫婦の関係となると全てを所有したり、知ったように錯覚することがある。
こうした人と人の理解の不可能性を説いているように感じる。
しかし不可能なことは決して悪いことではなく、それより他人はわからないということを前提としましょう、ということである。それにより新たな人との向き合い方を始めましょう、というテーゼの提出だ。

『女のいない男たち』を含め村上春樹の主人公は、対人関係においてその距離感や本質を見誤って妻や恋人を無くしたり、不幸になる人が多い。
とは言うものの、人間が生まれてからこの錯覚に悩まされた人は多く、私もその一人である。
その錯覚がなければファム・ファタール文学は成り立たないし、ロミオとジュリエットもない。

大人になってやっとよくわかる、大人な作品だと思う。
まっちゃん

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