幽斎

エスター ファースト・キルの幽斎のレビュー・感想・評価

4.4
恒例のシリーズ時系列
2009年 5.0 Orphan レビュー済、歴史に名を残すサイコ・スリラーの傑作
2022年 4.4 Orphan: First Kill 本作、オリジナルの前日譜
2025年? Orphan: Next door 第三弾製作決定、1作目の後日談

世界中のスリラー・ファンの度肝を抜いたサイコ・スリラーの続編。驚異の「子役」Isabelle Fuhrmanがエスター役で再登場、前日譚の本作で衝撃の過去が明かされる。Tジョイ京都で鑑賞。※Amazonプライム会員なら、無料で直ぐ観れます。

原題「Orphan」孤児。前作はLeonardo DiCaprioが設立したAppian WayとRobert Zemeckis監督の制作会社Dark Castleと言うハリウッド屈指のスーパー・タッグが実現してスリラーの歴史に名を刻む傑作を産み出した。Jaume Collet-Serra監督のキレのある演出も良かったが、やはり原案を書いたAlex Maceの一点突破の秀逸なプロットが全てと言える。ハリウッドでも実力者同志の好循環で興業的にも高く評価された。

一方で6歳の妹役Aryana Engineerちゃんは実際に難聴を患っており、サイレント手話が出来るから抜擢されたが、聴覚障碍者団体から描き方に問題ありとクレームが付いた。もう一点は養子縁組をネガティブに描き過ぎたと、これ又支援団体から抗議された。それを踏まえて続編は早期に製作する筈が、此処からボタンの掛け違いが始まる。

メジャー、Warner Bros.は主演Fuhrman続投で彼女にオファーを出すが、イメージが固定されると拒否。彼女のルーツはロシア系ユダヤ人、ロシア語のイントネーションは何の問題も無い。父親は共和党の議長まで務めた名家の出身。キャリアは順調で「ハンガー・ゲーム」「アフター・アース」レビュー済「エスケープ・ルーム2:決勝戦」普通の女性を好演(笑)。エスター続編の目途が立たない内、WarnerもAppian Wayもプロジェクトから離脱。エスターはFuhrmanが演じてナンボ。彼女のInstagramが此方。
www.instagram.com/isabellefuhrman/?hl=ja

その後Dark Castleは深刻な財政難に陥る。共に設立したJoel Silverと言えば「コマンドー」「プレデター」「ダイ・ハード」「リーサルウェポン」「マトリックス」ヒットを連発した敏腕プロデューサー。彼がレジェンドWilliam Castle監督のリメイクを創るホラー部門としてDark Castleを設立。だが後続の皆大好きBlumhouseに営業面で完敗、最新作がレビュー済「降霊会 血塗られた女子寮」と言う為体。其処でFuhrmanをプロデューサーに招く事で続編の快諾を得る。因みに「リーサルウェポン5」も企画中(笑)。

本作は一から出直す覚悟で創られ、Dark Castleとカナダの多国籍企業Entertainment One。配給はメジャー、Paramountが参画。Fuhrmanが監督に推薦したWilliam Brent Bellは「ザ・ボーイ 人形少年の館」手堅い演出を評価。脚本はレビュー済「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」David Johnson-McGoldrick。陣営で分る通り、本作はWilliam Castleの流れを汲む正統派ホラーを現代に再現。ソノ取り組みは視覚効果に表れた。

撮影時のFuhrmanは23歳。前作よりエスターの実像に近付いてる。つまり背も伸びてる訳で、ハリウッドで最先端のAI搭載のDFX「De-Aging」を使いFuhrmanを小さくして若返らす事は可能。しかしDFXよりVFXよりSFX、特殊メイクに拘るDark Castleは、物理的な視覚トリックでエスターが自然に見える工夫を凝らしてる。共演者は全て高身長、更に厚底の靴を履く事でFuhrmanとの身長差を際立たす。撮影フレームも古典的な遠近法を使い、正面を向いてる時は身体の半身を隠す、共演者と一緒に全身が映る場合は後姿、つまり代役を使う事で不自然さを取り除く。新作「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」81歳のHarrison Fordを若返らせたDe-Agingも素晴らしいが、Steven Spielbergは「今のHarrisonで描くべきだ!」最後まで反対した。私は温故知新の本作のクリエイティブを高く評価したい。

前作ではエスターは幼少期の性的虐待が下でPTSDを発症。原案のノベライゼーションでは、エスターは小学4年生のクリスマスの夜に父親からセックスを強要され、精神を病んでホルモンの成長が止まり、ADH分泌不全。下垂体機能低下症と言う世界的な難病を患う。実は下垂体機能低下は男性の方が比率が高く、不妊症の原因に為る事が多い。下垂体機能低下症は脳に腫瘍が出来る為、本作の設定は些かの現実味は有る。

前作が公開された翌2010年にインディアナ州に住むバーネット夫妻が8歳のナタリアを養子として引き取る。しかし、彼女は出身がウクライナなのに、英語はペラペラでウクライナ語は話せない。陰毛が生えるとか月経が有る等、医療機関で調べると「小人症」診断され実年齢22歳と判明すると態度が豹変。夫人のコーヒーに農薬を入れて殺そうとしたり、バスルームに血で「殺してやる」。養子の扶養放棄は罪に当たるので、恐怖を感じた夫妻は裁判所に認められカナダへ移住。ナタリアはマンズ夫妻と言う別の家族に引き取られた。リアル・エスター事件としてアメリカのエンタメニュースを派手に賑わせた。

前作で明かされた通り、前の家族は家が全焼して天涯孤独に為った所で本作はエンディングを迎える。Esther、本名Leena Cramerが稀代のサイコパスで有る事は観客は知った上で物語は始まるので、単細胞な方は「怖くない」低評価だろうが、養子と言う別の人間では無く本作は実の娘と言う設定、前作と比較してホラー要素は影を潜め、スリラー要素が加味されて物語は進行する。其処をドウ評価するかだろう。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

「少女の姿をした不気味な〇〇」プロットの根幹ですが、オーセンティックな演出、クライマックスで家の屋根に上って対決する姿を見て私は「シェイクスピアかよ」と劇場で呟いたが、前作以上の二番煎じなホラーは望めないと、私のマエストロ「SAW」James Wan監督の様な奇を衒う、観客に先読みを許さないゾと肩に力の入ったスリラー全開のテリフィックは、些かヤリ過ぎ感も否めない。ソコが減点対象と言うのは痛し痒しでも有るし年数の空いた続編自体のトラウマとも言える。

バビロン王の有名なラテン語Lex talionis「目には目を歯には歯を」地で行く最凶サイコパス×最恐サイコパスの対決を制する者が最強サイコパスな展開は想像出来たが、初めからハリウッド・スターJulia Stilesは前作のVera Farmiga(コッチが好み(笑)よりも明らかに狡猾でエスターへの違和感を隠さない。父親以外は常に不穏な空気が漂うが、違和感を感じたのはドナン刑事も同様。演じたHiro Kanagawaは札幌出身の日本人。カナダを拠点に活動するが、主要キャストが全員白人故のウオッシングだろう。

Stilesもサイコパスらしく自分の体裁しか眼中にない。富裕層相手のボランティア活動で経済的に自立、夫役Rossif Sutherlandがブラックライトのアート作家(此処に繋がるのね(笑)、彼女から見れば夫はアクセサリーの様な存在に過ぎず、兄役Matthew Finlanもフェンシングが得意と言うだけで「ほったらかし」。兄もサイコパスの兆候が有り、人に依って態度を瞬時に変える。妹を階段から突き落して殺した(ソレが再現される皮肉)Stilesが地下の穴に捨ててしまう。夫を勇気付ける為に偽物のエスターを迎え入れ「セックスが良くなったわ」嘯くが、Stilesが考える程、最凶エスターは甘く無かった。

齟齬が有るのが下垂体機能低下症のプロット。成長が止まると言う意味ではエビデンスは有るが、小学生で父親から強要され処女を奪われた割に、エスターはセックスに貪欲で前作でも本作でも父親に取り入ろうとする。父親の虐待の過去のトラウマと、かりそめの父親を誘惑するサイコパスの自己矛盾を十分に描き切れてない点がスリラー的には減点対象の2つ目。サイコパスと殺人鬼が一緒に暮らす事自体が狂気沁みた発想で、Stilesも「死んだ事実より行方不明の方が悲惨」と、エスターが自殺する工作を試みる。結局、生死を分けた鍵は父親の選択だった。

FuhrmanとStilesが共に屋根から落ちそうに為る所に駆け付けた。FuhrmanはStilesに殺られたと主張。Stilesは「エスターは大人の女で私達を騙してる」と叫ぶ。此処で父親は火事が起きた原因は妻だと悟る。つまり本物のエスターの失踪が妻と関係が有る事は薄々気付いてた。だから悩んでセックスレスに為ったが、エスターが戻ると俄然セックスに発奮する。自分本位の妻に不満を感じながら経済的な負い目が一瞬の判断を誤らせ、妻は転落し即死。エスターの入れ歯を見た時には時既に遅し。プロットの答えは次回作に持ち越しに為ったが。本作の真のプロットは「Basic Instinct」人はセックスに興味を失った時、人間を止めるべきなのだろうか?。

炎上する家から出るエスターのカッコ良さ、アルマゲドンかよ(笑)。続編としては合格点。
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