ほそまゆ

CUBE 一度入ったら、最後のほそまゆのレビュー・感想・評価

CUBE 一度入ったら、最後(2021年製作の映画)
1.0
世界最高峰のレシピがあるとして。
たとえば、世界No.1のシェフ、マウロ・コラグレコ氏のレシピであったらどうか。そう、ミシュラン三つ星レストラン「Mirazur」を率いるマウロ氏のそれだ。

しかし、その料理を完成させるためには、そのレシピに相応しい食材が欠かせない。そしてまた、相応しい食材を相応しく調理し、相応しく盛り付け、それが相応しく提供されることもまた必要なのだ。

さて、ヴィンチェンゾ・ナタリ氏による原作『CUBE』は1997年の作品。映画鑑賞を趣味とするならば、知らぬ者はいないのではと思われる傑作だ。

24年間の時を経てリメイクされた本作は、まさに傑作映画のレシピを基にしている。では、食材はどうか?味付けはどうか?どのように振舞われたのか?残念ながら一流のレシピは一流の料理として再現されることはなかったように思う。

越智が後藤の首を絞めるシーンがある。

演者の努力によって後藤の息苦しさは伝わってくる。が、首を絞める越智の手には力がまるで感じられない。それはまさにフリでしかない。力が込められているように感じられない。従ってそこに必要な緊迫感が失われている。

この邦画のアクションシーンは問題だと思う。冒頭のトラップシーンは、CUBEの得体の知れなさ、恐怖を観客に植え付けるべくして重要な役割を担う掴みのはず。しかし、登場人物による演出は薄っぺらく、また、CGもお世辞にも褒められたものではなく、既にスタート時点で転んでいる。

ハリウッド映画然り、韓流映画然り、彼女らの描くアクションには痛みが存在する。首を絞められれば本当に窒息してしまうのではないかと、それが演技だと理解はしながらも、そう感じられる迫力がある。そこからリアルな痛みが感じられる。だからこそ「逃げて!」と心の中で叫びたくなるし、死にゆく運命に涙したりするのだ。

もちろん、リアルな描写であれば全て良しというわけではない。まるでそれが本物であるように描かれていれば傑作が生まれるということではない。

しかし、CUBEという一流レシピを24年間もの時間をかけてリメイク作品とするからには、それ相応のクオリティが不可欠だ。

邦画の中にはボクが知らぬだけで、観れば感動する傑作も数多く存在するのだと思う。しかし、本作を観賞してそのような作品の存在を期待しようとすることは極めて困難である、というのがボクの正直な感想だ。

1.5倍速で視聴して何とか感想したが、その67分間を費やして得たものは邦画への改めての失望だった。

ボクは映画が好きだ。
およそ90分間前後の時間内という制約の中で、どのように一つの作品が完成されているのか。
それを味わうのが好きだ。
邦画にもぜひそんな存在感を発揮して欲しい。
ほそまゆ

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