佐藤哲雄

スプートニクの佐藤哲雄のネタバレレビュー・内容・結末

スプートニク(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画に関して事前に何ら調べもせずに、Amazon Primeに表示されたジャケット写真からB級SFっぽい印象を受けたので、早送りでもしながら観ようかと思い再生したが、良い意味でその期待を見事に裏切られたよ。

以下、具体的なネタバレを含むが、この映画はネタバレせずにコメントを書きようがないため、ご容赦願う。


冒頭の5分間、乗組員2名の鼻歌や暇つぶしの会話が続き、2人の性格が分かる場面になっていた。

そこから唐突に「何か」が起き、乗組員2人は恐怖に慄いていた。

そして、以降、一気に私の意識が画面に引き込まれていったよ。

いわゆるエイリアン系の映画は数多あるが、この映画はそのいずれとも異なっていた。

実にロシアらしい設定と構成で仕上げられていたよ。

主人公である変わり者扱いされている医師のタチアナは、美人というわけではないが整った顔立ちをしており、目を輝かせた正義感に溢れる医師ではないが、医療行為で忖度しない医師としての「人を救いたい」という内に秘めた情熱を抑えられない変人として描かれていた。

私は、情熱に溢れる熱血正義感な人が苦手で、静かに信念を貫く人を好む傾向がある人間なので、タチアナの人間性や人となりは、とても感情移入し易かったよ。

そして、エイリアンに寄生された気の毒な宇宙飛行士ヴェシュニャコフ(劇中のセリフからは正確には聴き取れない名前だった)は、本来は誠実さを発動せずに生きてきた男だったところへ、彼を命懸けで救おうとするタチアナに心を救われ、誠実性を発動し、自ら犠牲になった……ように私には見えた。

そして、この頃になると、タチアナの瞳が輝きを宿すようになっていた。

実に見事な演技だよ。

エイリアンの姿は全体像や細部も含め、ボカさず誤魔化さず勿体ぶらず、実に鮮明に表示されていた。

気色悪さは無く、相変わらず粘液質な皮膚だったが、色はほぼ真っ白に近かった。

凶暴性は、地球の野生動物と同じく、防衛本能と生存本能によって発動しているだけ、のように見えたよ。

ただし、それは生物としての本能に依存する部分の性質であり、このエイリアンの人格の基となっているものは、宿主であるヴェシュ……の人格だという点が実に興味深かったよ。

そして、さらに興味深かった点は、寄生したエイリアンと宿主のヴェ……とが、離れていても互いに異身同体(私が今作った造語)となっていた点が実に面白かったよ。

ゆえに、トチ狂った大佐にタチアナが襲われている時、それを見ていたヴェ……が怒り、大佐に向かって咆哮した途端に、死にかけていたエイリアンが目覚めて起き上がり、大佐に襲いかかってタチアナを救った、ように私には見えた。

タチアナはヴェ…を純粋に救いたいと思ってゆき、ヴェ…はタチアナだけを信頼してゆく、という、奇跡的に恋愛感情が微塵も生まれない2人の友情とも戦友同士の信頼ともとれる、実に純粋で美しい人間関係に心を打たれたよ。

戦闘シーンはほぼ無く、エグいシーンも必要最小限に抑えられており、主に人間心理の描写に重きを置かれていた印象だが、それゆえに、SFでもなく、ホラーでもなく、言わば信頼と友情の物語として描かれていたように思うよ。

そして、最後にヴェの息子さんを迎えるタチアナのシーンがそれを確定させていたよ。

実に素晴らしい映画だったよ。
感謝する。
今後のロシアの映画界には心から期待を寄せたいと思う。


追伸
長い主観文と、人物名を省略するご無礼をご容赦。
佐藤哲雄

佐藤哲雄