幽斎

呪われた息子の母 ローラの幽斎のレビュー・感想・評価

呪われた息子の母 ローラ(2021年製作の映画)
4.2
バルセロナ近郊に在る海辺のリゾート地Sitgesで毎年10月に開催される映画祭から厳選された作品を上映する、シッチェス映画祭公認「ファンタスティック・セレクション2022」。アップリンク京都で鑑賞。

タイトルホルダー的な上映会でシッチェスが一番好きかなと思う今日この頃。以前は東京まで下向(笑)、ヒューマントラストシネマまで行く必要が有ったが、アップリンク京都が出来て随分と楽に成った。同時にシネリーブル梅田へ行く機会も減って大阪の事情にも疎く為る。スタンプラリーでTシャツをゲットとかグッズに興味は無いけど、東京、名古屋、大阪、京都、神戸以外でもオープン・マインドされる事を期待したい。

シッチェス2022で「ビハインド・ザ・ドア 誘拐」「パラミドロ」「ヴィーガンズ・ハム」「ゾンビ・サステナブル」レビュー済。今年の6作品のラインナップで本作が一番完成度が高い事は間違いない。友人から「ぼくのデコ 23歳のヴァンパイア兄貴」吸血鬼コメディと聞いて食指が伸びないので、何時まで待ってもレビューは出ません(笑)。

レビュー済「ハロウィン KILLS」スタイル抜群!(笑)、Andi Matichak主演。Ivan Kavanagh監督はJohn Cusack主演「Never Grow Old」西部劇をモチーフにしたアクション・スリラー等、アイルランドを代表する映画人。ダブリン国際映画祭やロンドンのポートベロー映画祭の常連。共演はハリウッド・スターEmile Hirsch。「卒業の朝」私の苦手な(笑)、青春映画で有名だが、Sean Penn監督「イントゥ・ザ・ワイルド」演技力も認められたが、最近はレビュー済「ミッドナイト・キラー」Bruce Willis共演と冴えない出演が続く。

雰囲気はイタリアのスリラーGialloっぽいが、どんでん返しが伏線無視のドッキリでは無く、ミステリー発祥の地スコットランドを隣国とするアイルランドらしく、ミスリードをしっかり練り込んだ脚本、陰影を強めた映像はイギリス映画が一番好きな私にはジャストフィット。英国連邦ではオーストラリアが産んだ「ババドック 暗闇の魔物」テイストが似てる。アップリンク京都はシッチェスが基本レイトショー扱いなので、仕事帰りの作業服の叔父さんが居るけど、隣の若い女性に酔っ払って話し掛けて迷惑そうだったので、係員に言って席を変えさせた。「イビキ」よりタチ悪いので鑑賞マナーも守って欲しい。

初心者に先読みを許さない巧みなスクリプト。ゴシック調と異を異にする無骨なヴィンテージ感はマッシブな印象を与え、禍々しいインダストリアルな劇判がミステリーに彩を添える。不安に満ちた展開が徐々に観客を追い詰める様式美は、ミステリー、スリラー、ホラーを十分に理解した上、過去の名作に囚われない独創性すら感じた。Matichakの鬼気迫る静かな演技で、観客を精神的に追い詰める点がマーベラス。人間の歪んだ感情をダークテイストで纏めるのがイギリス映画の真骨頂。だから、好きなんだな(笑)。

印象に残ったのは「遊園地のシーン」。お子さんの居る方にはシンパシーが伝わると思うので、お見逃しなく。秀逸なのは恐怖と悲しみが何層にも折り重なるミルフィーユ構造。ハリウッドのジャンプスケアや視覚的なグロさに頼らず、絡まった謎の糸が、綺麗に解けていく、悪い方に。静かな基調で起承転結を大事にするイギリス映画のプライドを見た気もした。物悲しい余韻を残すラストも、Matichakの心の葛藤が十分に伏線として機能。スリラーとして安易に「実は母親はサイコパスでした」逃げるのではなく、感情が豊かな方はラストを見て涙すら流すかも。母親の献身が報われたのか、是非貴方の「目」で確かめて欲しい。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

「全ては母親の悪夢」解釈する方も居るが、ラストに登場したのは「サタン」間違いない。サタンと人間のハイブリッド故に常に「輸血」が必要。Davidが自分で「狩り」が出来るまでMatichakの保護下にカルト教団に見守られ(監視され)るが、随所に登場する「お母さんは貴方に何もしてあげられない」生身の人間だから当然だが、イギリス映画らしく皮肉を効かせて幕を閉じる。Matichakは悪魔を召喚する秘術を持つが、良心の呵責に耐え切れずDavidを殺そうとする。つまり彼女は教団から母親の資格が無いと言う理由で「殺された」。ソウEmile Hirschもカルト教団の一味なのだ。

途中から謎が解けてプロットがレビュー済「LAMB/ラム」思ったが、同じく母親は置き去りに(殺されて)父親が引き取る。昨今のLGBTQに対するカウンターにも見えたが、本作の場合は誘拐され、或いは父親に近親相姦されてDavidが産まれたと誤認させるミスリードが地味に上手い。「LAMB/ラム」同様、異世界人が父親だが何方も或る意味ハッピーエンド。結果として鬱映画トップクラスのレビュー済「ミスト」顔負けのラスト。Hirschが警察権の域を超えてMatichakの力に成るフリをするが、決定的なのはMatichakから誘われセックスに至る時に腕の包帯を指摘されたシーンがラストに見事にハマる。妄想は全てMatichakの幻覚、部屋にカルト教団の仲間が集まったが、アレは幻覚。突き当りの部屋と子供部屋が反転してる。廊下で医師達が密談したのも幻覚。

Hirschは彼女を担当した元医師に単独で会いに行く。医師はカルト教団の仲間では無く、同僚が調べる前に先回りした点がミスリード。刑事と言う立場を利用して監視&セックスした(笑)Hirschだが、病院側に協力者は居なかったと言うオチに繋がる。ソコを切り離して考えれば簡単に真の結論に辿り着ける。Matichakが殺害現場に教団が関与してる事を仄めかすメッセージを「血」で残した理由はHirschを信用したから。学校の授業のペイントとリンクする等、随所に伏線が仕込まれた。秀逸なのはカルト教団の実態を明確に占めさず、観客のイマジネーションに委ねた点。教団トップは一瞬姿を見せたが、世代を考えるとHirschの父親がボスだとしたら、一番スッキリする。上手くイケばMatichakを利用して、人間側Hirschの子孫も残す計画。理由は悪魔を召喚する秘術の継承。だから、彼は最後まで彼女を別な意味で守ったのだ。

原題「Son」息子、イギリス英語なら「正統な後継者」と言う意味も有るのです・・・。
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