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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の藍色のレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.0
鬼太郎のアニメを見るのは小学生ぶりかも。血まみれの墓地のポスターが良かった。

「鬼太郎誕生」というタイトルなだけあって、随所に水木しげる漫画のテイストが出ていて面白い。

モブの顔が水木しげる作画だったり、地下に繋がる鳥居の色使いが水木漫画のカラーページみたいな色遣いだったり。

水木さんが負ってる南方の戦場のトラウマエピソードも、「総員玉砕せよ」とかの戦争を描いた水木しげるの漫画から持ってきてるんだろうなって気がする。

「墓場鬼太郎」の漫画は最初の方少しだけ読んで、アニメと全然違うなと思って途中で読むのやめてしまったんだんだけど、この映画はアニメと原作漫画の両方の要素を取り入れていて、本当に「鬼太郎誕生」という感じの映画だった。

(逆に、物語導入に出てくる現在のアニメの猫娘は萌えキャラ作画になりすぎててちょっと引いた。今こんな感じなんだ…かつての三白眼の妖怪化け猫がこんな感じに…)

映画のカメラワークや視点の切り替えがすごく巧みで引き込まれた。

現代の廃村に迷い込んだ記者の叫び声→時貞王が死んだ!の叫び声の繋ぎとか。
記者の水木が社長に「私に行かせてください」という時の金魚の演出とか。

水木が夢の中で南方の戦場を思い出すシーンでは、かつてフィリピンで従軍してた祖父から聞いた話を思い出した。「真っ暗な闇の中で、米兵が撃つ銃口から放つ光だけが、地上に星が落っこちてきたみたいにピカピカと光っていた」っていうの。まさにこんな感じだったんだろうなと思った。

幽霊族の血から作った「M」により、猛烈サラリーマンが眠らずに働くことで日本を復興させ、もう一度戦争のできる国にさせる…っていう時貞王の野望は、現実社会に重なるものがあり面白かった。

実際に、昭和のあの頃は「24時間働けますか」の時代だし。「戦後の日本社会には、かつてないほど『人を殺したことのある人間』が『普通の人びと』として暮らしていた。そして、その中で戦場のトラウマから帰って来れない人たちは、『企業戦士』として猛烈に働くことでトラウマを紛らわしていた」みたいな話を聞いたこともあったので。

時貞王が、孫の魂を追い出して自分の器とするくだりには、最近流行りの異世界転生って実質やってることこれだよねって思って大筋とは全然関係ないけど笑いそうになった。

どうしようもなく大きな力のために押し潰された人、奪われた人たちの最後の叫びとして、トキヤくんの最後の「忘れないで」という叫びがきいている。

忘れられないように、無かったことにされないようにすることって大切だよね。忘れさせること、無かったことにさせることは、いつだって理不尽を押しつける側の常套手段。

沙代ちゃんが救われる未来のifが見たすぎる。水木が沙代ちゃんに近づいたのは龍賀家に近づくためだったし、沙代ちゃんに東京に連れていって、妻にしてほしいと迫られた時に、頷きはしたけどその気はなかったけど。

でも沙代ちゃんが時貞王の子供を生まされるのに使われてると知った時に、沙代ちゃんを助けようとしたのは心からの感情だったし。沙代ちゃんが連続殺人の犯人であることも知った上で東京へと逃がそうとしたし。沙代ちゃんに刃物を突きつける手は震えていたわけで。

沙代ちゃんも水木も、理不尽な権力や、掲げられた理想の前で押しつぶされ虐げられて、果ては殺人者になってしまったという点では共通してるし、そこに同情や共感はあったと思うんだよね。

沙代ちゃんが龍賀家を滅門した後に東京へ一緒に逃げ出て、もういいどゆっくり最初から2人の関係を初めて欲しかった。それが都合の良すぎるハッピーエンドだとしても。

作中で、タバコが結構重要な小道具として使われている印象を受けた。水木は子供の前では、くわえタバコはしているけど火をつけて吸ったことはない。冒頭の列車のシーンで、タバコの煙にむせてる子供がいる。そういうところから、力のないもの・弱いもの・見落とされるもの達に対して、無神経になりきれない水木という人物を表しているのかな、と思ったり。

でもかつて南方の戦場で自分がそうだったトラウマから、力のないもの・弱いもの・見落とされるものではありたくないし、そうならないためには人を踏みつけにしてでも這い上がりたい、という気持ちもあるからくわえタバコはしてる、みたいな。
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