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ノーカントリーのタキのレビュー・感想・評価

ノーカントリー(2007年製作の映画)
3.9
トレーラーハウスで妻カーラと暮らす元溶接工の中年男モス(ジョシュ・ブローリン)がテキサスの荒野で狩猟中、銃撃戦があったとおぼしきいくつもの死体が転がった現場に出くわす。麻薬取引でのいざこざが原因のようだが、200万ドルの大金の入ったバッグ発見し危険と知りつつ持ち帰ってしまう。妻を実家に返し大金入りのバッグを持って逃げるモスをギャングから依頼を受けたアントン・シガー(ハビエル・バルデム)が追う。200万ドル入りのバッグには発信機が仕掛けられており逃げ場所は即バレ、元ベトナム帰還兵でもあるモスと追手シガーの戦いは凄惨を極める。麻薬取引の元締めはシガーが制御できなくなり、新たな追手ウェルズ(ウディ・ハレルソン)を送り込むもシガーに殺され、自分になんの断りもなく新たな追手を送り込んだ元締めも殺してしまう。一方、テキサスの地元保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)危険の迫るモスの行方を探していた。
設定は組織から大金を持ち逃げする人物、追うふたりの立場の違う人物という三つ巴の追跡劇。よくありそうな設定だが追手のシガーという男のキャラクターが一目見て異常。青白い特濃ソース顔におかっぱヘア、でかい体躯をパリッとしたジーンズの上下でキメている。さらに道中、職質した保安官や殺し屋、民間人(トレーラーハウスの管理人、バッテリーを繋いでくれた鶏を運ぶおじさん、モスの妻等々)などたくさんの人々に会うのだが独自のルールでとにかく殺って殺って殺りまくる。シガーに会って命が助かったのはコイントスで表を引き当てたドラッグストアのおじさんと保安官のベルだけだ。牛の屠殺用のガスボンベみたいなのがくっついたエアガンという殺しの道具がヘンテコなんだけど一撃必殺という恐ろしさ。もうシガーに出会ったら終わりなのだ。終盤この3人がどう絡んでくるのか固唾をのんで見守っていたら、たいして絡まず保安官に至ってはふたりに会わずに(対面したかという意味で)引退してしまった。人の死は無慈悲な運命によって左右され、老保安官は立ち尽くし呆然と見送るのみということか。そしてラスト、モスの妻を(たぶん)殺し、住宅街を車で走り抜けるシガーの車に信号無視の車が横から突っ込んでくる。ヨロヨロと車から降りてきたシガーは通り掛かった少年から着ているシャツを買って開放骨折した腕を結んだシャツで釣って立ち去る。突っ込んできたクルマからは誰も降りて来ない。誰が運転していたのかも知らされない。これはただの交通事故か?場を支配していた死神のような男が突然地上に引きずり下ろされた。奴もまたただのモブキャラ同然のなんの意味もない死を迎える可能性があるということか。呆然。お金、どこいったんだろう…。
原題は No Country for Old Men(老人の住む国じゃない)
話は通じない、殺した先のビジョンもない(殺すのが目的)こんなモンスターのような人間の犯罪や、いまだ終わらぬ戦争に対して無力感を感じるのと同じなのかもしれない。でも、彼らは決して主役などではない、とふとそんなことを思ったりもした。

宇多丸シネマハスラー
シガーの怖いけど嫌な感じがしない雰囲気を上手く言語化されていてさすが
公式ではないので聞くならお早めに
https://youtu.be/WCR6k5FJvMg

達観した老保安官のメタファーがむずかしすぎる問題の回答のようなもの。読んでもやっぱりわからない。ノーカントリーの原作は純文学のようです↓
映画評論家町山智浩アメリカ日記
「ノーカントリー」の結末の夢の意味https://tomomachi.hatenadiary.org/entry/20080320


シガーをパロディにするあたりアメリカでは愛されキャラっぽい↓
アントン・シガーwiki
アントン・シガー(Anton Chigurh)は、コーマック・マッカーシーの2005年の小説『ノー・カントリー(英語版)』に登場する架空の人物で、主要な悪役である。2007年公開の映画「ノーカントリー」ではハビエル・バルデムが演じた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%AC%E3%83%BC
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