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セールスマンのtorumanのレビュー・感想・評価

セールスマン(1969年製作の映画)
3.9
1960年代後半のアメリカ。
1冊約5万円の豪華聖書を売り歩くセールスマンたちを描くドキュメンタリー映画。
アルバート&デビッド・メイズルス兄弟監督の代表作です。

聖書販売会社「ミッドアメリカン・バイブル・カンパニー」で働くポール、チャーリー、ジェームズ、レイモンドの4人のセールスマン。

冒頭で名前と愛称付で紹介されます。
初期のマーティン・スコセッシやガイ・リッチー作品みたいです。

このセールスマンの個性が際立っています。
ポール(あなぐま):ベテランだが、一本調子の売り込みで、お客への売り込みの諦めが早い。
チャーリー(ギッバー):見た目が怖いが、客の懐に入るのが上手く、支払いについても所在ない。
ジェームス(うさぎ):若さと訪問数で数を稼ぐタイプ
レイモンド(ブル):押して押して押しまくる粘りの営業

素人とは思えない味のある顔
表情一つ一つもいぶし銀の俳優のよう
個性的なセールストーク

作品中ではポールを中心に追って行くが、売上が中々伸びず、最後には地理のせい、地域のせいにしてしまう有様。
観ていくにつれ、セールススキルと各人の実力が見えてくる。
売る奴はちゃんと売ってくる。
調子が悪いと、お客にも焦りの空気が読まれて、さらに売れなくなる悪循環。
ここら辺の空気感は凡百のフィクション作品には出せないものです。

また、売物が聖書である(アメリカならでは)事が、"買わない"ことが神への不信心に繋がるのではという客の気持ちと、セールスマンとの丁々発止なやり取りがえげつなくも考えさせられます。

人間観察の優れたフィクション作品のようなドキュメンタリー。
ジョン・カサヴェテスの埋もれていた作品を観た気持ちになりました。

面白かったです。
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