りょう

わたしは最悪。のりょうのレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
4.0
 ヨアキム・トリアー監督は、前作の「テルマ」が秀作だったので、てっきりサスペンス路線が得意なのかと思ったら、こんな日常的な物語でも才能を発揮してきました。
 序章~各章~終章という構成はめずらしくありませんが、それぞれの尺がバラバラで、微妙に作風が変化しています。唐突にナレーションがかぶってきたり、世界の時間をストップさせる幻視的なシーンがあったり(ここの描写が最高)、マジックマッシュルームの幻覚が妙にグロテスクだったり、まるで各章で監督が交替しているようです。
 ユリヤはめちゃくちゃ美人ではありませんが、少し知的で可愛くて、かなり魅力的です。恋人になるアクセルとアイヴィンとは、どちらもパーティで出会ってすぐに惹かれあってしまいます。彼女の周囲にいたはずの他の男性たちは、その魅力に気付かなかったのでしょうか。
 ユリヤが学問や職業をコロコロと変更する序章からはじまり、恋人関係の解消など、その多くが衝動的で突発的な印象です。そうした彼女の“選択”は、彼女自身の主体的なものなので、どれも間違っていないと思いますが、他人への配慮が不足しています。悪く言えば“自分勝手”です。
 原題の直訳は“世界で一番悪い人間”だそうです。邦題を「わたしは最悪。」(句点あり)にした理由はわかりませんが、原題もユリヤの主観だと思います。いろんなタイミングに恵まれず、とりわけ女性としての“生きづらさ”や30歳という年齢の焦燥感に駆られながら、“選択”が自己中心的なものになってしったことを自覚していたのかもしれません。
 過去には“最悪”でありながらも、とてもポジティブな心情であろう彼女の表情と佇まいは、なかなか清々しいエンディングです。ノルウェーのオスロの街並みと白夜のシーンがとても印象的で、音楽の使用もいいセンスでした。
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