ボブおじさん

マイスモールランドのボブおじさんのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.0
川和田恵真監督の商業映画デビュー作、彼女自身もイギリス人の父と日本人の母をもつミックスルーツだという。社会のセーフティネットからこぼれ落ちた名もなき人々にスポットを当てるテーマ選びは、どこか師匠の是枝裕和監督を想起させる。

主人公のサーリャは、クルド人のコミュニティの中ではクルドの慣習に従うが、一歩外に出れば普通の女子高生として友達と学園生活をエンジョイしている。だが、彼女は友達に自分のことを〝ドイツ人〟だと言っている。

サーリャを演じた嵐 莉菜は、オーディションで選ばれ、これがデビュー作だというが、まさにこの役にピッタリのキャスティングだった。日本生まれの日本育ちだが、5ヶ国のミックスルーツだという彼女は、文字通り日本人離れした目鼻立ちだ😊

映画の中で高齢女性が〝どちらの国から?〟と優しく問いかける。これまで何度となく聞かれた悪意のない言葉が彼女を苦しめる。

国を持たないクルド民族は大国に翻弄された歴史をもち、自分の居場所や家族を守るために戦わねばならない状況にあった。どこの国にあっても〝目障りな少数民族〟のように扱われ、抑圧の対象であった彼らは、自分達の居場所を求め世界中に分散している。

日本にも難民申請をして暮らすクルド人が約2千人いるというが、日本の難民認定率はとても低く、多くは苦しい生活を強いられている。彼らは日本に逃げてきたのに、また〝別の戦い〟の中にいるのだ。こうした事実をほとんどの日本人は知らない。

〝努力は必ず報われるから〟サーリャを励ます担任の愛ある言葉も真実ではないことを彼女は気づいている。

父は子供たちに胸を叩いて教える〝俺たちの国は心の中にある〟と、だが残念なことに心の中に住むことはできない。自分たちの居場所がないことをサーリャはもう知っている。

〝本日よりこの在留カードは無効になります〟無機質に答える役所の担当者の台詞を言わせているのは、他でもない私たちが作った日本のシステムだ。

一緒に大阪に行こうという友達に〝私は行けない〟と答えるしかないサーリャ。そう、行かないじゃなくて行けないのだ。日本人なら簡単に超えられる東京と埼玉の県境が、クルド人である彼女たちには、国境以上に高い壁としてそびえ立つ、この理不尽なルールを作り出しているのは、紛れもなく我々なのだ。

移民問題をコインに例えるならこの映画は、表の面しか描いていない。どの国にも移民が引き起こす負の側面もあり、そうした裏の面にスポットを当てた「レ・ミゼラブル」や「アテネ」のような映画もある。

いずれにしても移民問題は、外国人労働者の受け入れも含め自分たちとは関係のない話という訳にはいかない時代になってきた。今まで通り〝にっこり笑って関わらない〟では済まされない。


公開時に劇場鑑賞した映画を動画配信にて再視聴。


〈余談ですが〉
漠然とではあるが、将来海外移住をしたいと考えている。そうなると移住先から見れば、自分は移民ということになる。

もちろん日本とクルドでは、状況がまるで違うので比較にならないが、それでも移住先では温かく受け入れてもらいたいと思っている。

そのために、自分はどう振る舞うべきか、どんなことを準備すればいいのか、相手からはどう受け入れて欲しいのか?

とかく移民問題は難しく捉えがちだが、案外こんな身近なことから考えるのがいいのかもしれない😊