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オッペンハイマーのtkのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
プロメテウスの火。
人類の叡智の到達点。
その開発にまつわる人間模様。
マンハッタン計画の名前は知っていたけど、こんな顛末があったのか。
事前の予習のおかげで序盤は理解しやすかった。
芸術に造詣があり、量子力学が発展する時代に育ち、”実験“が苦手な”理論“派。
6ヶ国語を操る才能、ブラックホールの名がつく前に星の崩壊後を論文に出したり。
そんなオッペンハイマーという人物の人となりがスムーズに描かれていく。
ルイス役、ジェレミー・アイアンズかと思ったら、ロバート・ダウニー・Jr.で驚き。
日本人にとっての核兵器は究極の禁忌ではあるが、専ら博士のパーソナルな部分を描いていて興味深い。
科学者と兵器というと、可能性の追求や興味の先にある危険性をイメージしがちだった。
マンハッタン計画についていえば、少なくともこの映画を観た限りでは、使命感に突き動かされていたんだなと認識が変わった。
ナチスより先に、ソ連より先に...。
いずれ誰かが手にするのなら、誰よりも先に。
イデオロギーの対立と共産主義。
米ソ冷戦。
ロスアラモス研究所。
「アラモを忘れるな!」
デイビー・クロケットの舞台でもある因縁。
日本への投下が現実味を帯びてきたあたり。
方法が目的になってやしないか?
そんな議論が印象的だった。
電子や陽子、中性子。
ミクロの世界のぶつかり合いの連鎖。
現実世界でも、些細に思える人間同士の不和が戦争に繋がるのも同じ感じか。
宇宙から見た地球に国境線は見えない。
国があるから争いは無くならないのか。
そんな言葉を思い出した。
何に忠を尽くす?
国か恩師か、任務か思想か、組織への誓いか、人への情か。
量子の世界が観測と認知から成り立つように、人は己が観測できる、身近な範囲しか認識できないのか。
もう核なしの世界には戻れない。
オッペンハイマーは世界を変えてしまった。
ただ、難しい問題は先送りにしてしまうとしても、自分たちが観て、感じたことを伝えることはできる。
想像力による抑止を期待される脅威ではあっても、所詮他人事の人間には“新しいミサイル”程度の認識なんだろう。
そんな核兵器の恐ろしさを語り継ぐ使命は、この国の人間としてはあると思った。
観て知れて良かったことが多々あった。
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