ダイゴロウ

オッペンハイマーのダイゴロウのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4
IMAXにて鑑賞。
クリストファー・ノーラン監督によるアカデミー作品賞受賞作品。
オスカーも納得の濃密で没入感満点の傑作だった。

ナチスに対する危機感により進められた原爆開発の計画である「マンハッタン計画」において、初代の研究所長に任命され、原爆製造研究チームを主導し、世界で初めての原爆を開発してみせた科学者オッペンハイマーの半生が描かれる。

「原爆開発」までの作品かと予想していたが、赤狩りの機運による公職追放や米国商務長官の任命に関する公聴会の様子など(ついでに戦後のトルーマン大統領との接触なども)開発後の多くの事件についても、ノーランらしい時系列を無視した構造で描いている。
(本作の時系列バラバラ構造がシンプルな作品を複雑にしている側面もあるが、少なくともクライマックスまで飽きさせない上では効果的であったと思う。)

オッペンハイマーを特別に美化したりせず、日本への原爆投下に関する米国の言い訳めいた内容になっていないように感じた点が良かった。
ナチスの降伏により、原爆を投下する必要がなくなったとの意見に対し、「日本がいる」と発言したシーンも印象的で、投下に関する逡巡については寧ろ一部の研究所のメンバーの方が強く描かれており、被爆国の日本人としてオッペンハイマーを"無事に"愛することは出来なかった。
実験の成功や投下成功時の喜びムードが実情であり、オッペンハイマー自身が日本の惨状について目を背けたからこそ、原爆による悲惨な映像も多くは描かれない。本作はあくまでオッペンハイマーの半生記なのである。
(せっかくの機会なのに、原爆の悲惨さが伝わりきらないもどかしさは拭いきれないが…。)
オッペンハイマーのことを無理に愛らしく描かないからこそ客観的かつ興味深く鑑賞できる点が本作の魅力ではなかろうかと思う。
(長崎への投下理由なんかはざっくりしていて、別の種類の原爆も試したいから落としたようにしか思えないし、やるせない気持ちにはなった。)

最後に明かされるアインシュタインとの会話が史実に基づくものであるのかは分からないが、歴史を変えてしまうほどの兵器を開発した科学者の苦悩を表現するのに、陳腐であるが十分に妥当で映画的な美しい終幕であったと思う。
(ストローズの小者感が強く浮き彫りになった場面でもある。)