細谷しゅうへい

オッペンハイマーの細谷しゅうへいのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
この映画はあらゆるテーマが含まれているから、個人映画としても戦争映画としても、または原爆を作るまでのビジネス映画としても、政治映画としても解釈できると思う。

僕は特にオッペンハイマーが自己矛盾に苦しむ個人映画として、この映画を楽しんだ。
彼の一貫性のない危うくも人を魅了する謎に包まれた行動を通し、彼の視点に立って
「自分だったらあの時どうしていたか?」という問いを常に突き出してくる。
オッペンハイマーは全てを理解した上で作りたかったから原爆を作った。
もちろん当初はナチスより先に原爆を作って世界を破滅から守るという大義名分はあったが、
ドイツの原爆開発が頓挫した時点で、そしてヒトラーが自殺しナチスが瓦解した時に目的は失われた。
それでも日本があると目的をすり替えて、世紀の大虐殺へと至ったのはどうしても作り出した核兵器が落とされたらどうなるのかを
ただ見たかったという人間の業という他ないだろう。
彼の行動は、それをすれば後にどうなるのか全てを分かった上で行われてる点が重要で
愛人が自殺し苦悩する彼に妻が、罪を犯しておいて今更同情しろと?と詰め寄るシーンは
嘆願書を跳ね除け原爆投下したくせに今更になって耐えきれない彼の苦しみと重なる
愛人の自殺というミクロな彼個人の罪と
原爆投下というマクロな世界の罪が対比構造となっている所が面白い。

この映画は、どうしても日本人としてどう観るか、果たして原爆が生まれる過程やトリニティ実験の臨場感をエンターテイメントとして楽しんでいいのか?という点が付きまとうので初見時は映画との向き合い方に苦労した。
しかし観終わるとこの映画は誠実であったと安心した。
一つの分かりきった答えを提示するような簡単な作品ではなく、あの時どうするべきであったか、何の因果関係から今の世界があるのか、そして今後私たちは世界とどう向き合うべきか?
そのような問いを映画を通じて突きつけてくれる。


とまぁだいぶ肯定的な意見を書いたけど、個人映画としてのオッペンハイマーが好きな分、後半のオッペンハイマーVSストローズの展開にあまりハマりきれなかったのでそこは微妙でした。
長く語るにしてはストローズは人間として小さい…
アインシュタインとオッペンハイマーの対比は魅力的だけどね……