長内那由多

SHOGUN 将軍の長内那由多のレビュー・感想・評価

SHOGUN 将軍(2024年製作のドラマ)
5.0
近年『パチンコ』『TOKYO VICE』など、日本を舞台にした海外プロダクション作品が増え、未だ見ぬ俳優が活躍の場を得始めた。それらの潮流をまとめる真田広之の渾身作。歴史に註釈を打ち直すような現代的脚色も面白い。

『SHOGUN 将軍』と『TOKYO VICE』シーズン2が同時期にリリースされているって凄すぎ。全くジャンルの違う作品に見えて、描いているものはすごく近いと思う。2000年代の東京で「ガイジン」呼ばわりされてしまうルーツが1600年にある。

キャスト陣では浅野忠信がやっぱりイイ。この人はミステリアスな役も魅力的だが、ニタニタした下品な男を演じると実に楽しそう。他、連投中のアンナ・サワイがすごく上手くなっていてビックリ!

E3
とにかく面白いものを作ってやろうという気迫とサービス精神。“Winter Is Coming”なセリフまで出てきて、徹底的に『ゲーム・オブ・スローンズ』をフォローしている。架空の登場人物を使った架空の戦国時代なら、行く行くは“キャスタミアの雨”級の事件が起きるかもしれない。

E4
真田広之に毎週ほれぼれ。冬が近付いてもホワイトウォーカーは来ないが、地震がいつ何時も脅威となるのがこの国。コスモ・ジャーヴィスという俳優は初めて見たが、声がいい(ブレイク前のジェラルド・バトラーを彷彿)。アンナ・サワイも飛躍。シーズン更新はほぼ確実では。

E5
このドラマは通常の会話に加え「伝わる」「伝わらない」「伝える」「伝えない」と幾つものベクトルが交差し、脚本も演出も巧妙。『ゲーム・オブ・スローンズ』と比較されるが、落とされる首はずっと少なく、2024年のドラマとして洗練。地震の存在もいい。前回の納豆といい“東洋の奇妙な食べ物”というクリシェを反転した機知も笑える。安針がイイ奴でどんどん好きになってしまう。

E6
時代劇特有のタメとケレンのセリフ回しが炸裂。こういう芝居は一朝一夕でできるもんじゃない。これを世界中の人が字幕で観ているのかと思うとちょっとテンションが上がってしまう。アンナ・サワイとお茶屋の女将役Yûko Miyamotoの演技合戦は凄かった。夜間シーンのカメラも素晴らしい。

E8
茶室の静謐さと間合い、アンナ・サワイ、阿部進之介の名演に息を潜め、これまで脇を締めてきた西岡徳馬の大見得に声が漏れた。そしてベイラー大聖堂で散る気がないエダード・スタークと言わんばかりの展開に握り拳。残り2話!

E9
スペクタクルよりも間合いの緊迫でシーズン終盤を飾るのが本作の美学(でも忍者はサービス)。アンナ・サワイは特大級のブレイクスルー(二階堂ふみも貫禄)。『ゲーム・オブ・スローンズ』が10年かけた土台に新たなヒロイン像を打ち立て、心なしかデナーリスの供養もしてくれた感。

E10
まさに一発勝負の紅天の如きリミテッドシリーズと聞いていたが、後の展開への余白も少々。浅野忠信は最高。極東で見た天下泰平の夢を、今際の際の按針が再び幻視する。視聴者が期待してしまいがちなスペクタクルではなく、あくまで所作や太刀筋、そして夢幻美で魅せていくのが本作と真田広之のプリンシプルなのだ。
長内那由多

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