しゅうへい

ダーマーのしゅうへいのネタバレレビュー・内容・結末

ダーマー(2022年製作のドラマ)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

※毎話ごとに備忘録も兼ねて記録していたので説明文に近いレビューとなっています。読む際はご了承ください。

十数年間で17人もの青少年を殺害したとして有罪判決を受けたジェフリー・ダーマー。恐ろしき連続殺人犯が、これほどの長きにわたり逮捕を逃れ続けられたのはなぜなのか。

悲劇の殺人鬼。性の対象が男性、善悪の区別がつかず行動の全てが衝動的。そして極度の虚言癖。(後に境界性パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害、精神病性障害と診断されるも裁判では「法的に正気」と診断された。)一般社会に馴染めず人と違う事を幼い頃から悩んでいた。両親に相談しようにも父親はその現実から目を背け、母親は産後鬱を患っており、夫婦仲は最悪。誰もジェフリーの気持ちを理解しようとはしなかった。

当時のアメリカ社会は同性愛者に寛容ではなかった。「男とはこうあるべきだ」という価値観の押し付け、趣味趣向を否定されて長年苦しむことに。そして酒やマリファナに逃げた。学校や仕事も長続きせず犯罪歴だけが積み重なった。そんな彼が快楽を感じる瞬間は意中の男性と触れ合うこと、動物を解剖すること。孤独の中で生きる彼は寂しさを埋める為に金や酒で男性を誘い、強引に触れ合おうとする。相手に拒否されれば殺してその死体を味わう。また血液や内臓を体内に入れることで欲求を満たしていた。

回を増すごとに犯行の手際やコミュ力、嘘の上達が感じられて恐ろしい。彼なりの人間的な成長はそれくらい、根本は変わらず凶暴性を増して悪化し続けた。軍で培った医学知識を活かして薬を盛るようになったのもそう。ただあまりにも大胆な手口に勘付かれない訳がない。これがハンニバル・レクターだったら…なんて想像するだけ無駄か。レクター博士のように襲う相手に明確な理由はなく、ただ一目惚れした相手というのがあまりに身勝手で残忍な犯行。また被害者に悪人が誰一人いない…もう言葉にならない。

「どんな犠牲を払ってでも誰かと一緒にいたいという、終わりのない欲望だった。いい男と…それだけだ」

そんなジェフリーにも転機と言える相手が現れた。それはバーで出会った聴覚障害者の黒人。彼との出会い、それは本物の愛を知った瞬間だったのかもしれない。酒に幻覚剤を入れそびれた事で始まった交際、彼はジェフリーの事を間違いなく愛していた。いつも相手に一方的な愛をぶつけることしかできなかったジェフリーに初めて対等に愛してくれる相手ができたのだ。いくらでも殺し犯すチャンスはあったはず、しかしジェフリーは戸惑った。それでも一瞬の孤独を恐れ血濡れのハンマーを…。

彼は生涯で青少年17人を誘拐し性的暴行の上、殺害、屍姦しカニバリズムを行った。これは明らかに警察の怠慢によるもの。前例がない為に仕方なかったとも言える?それでも何度も逮捕を回避し、たとえ捕まっても短い刑期で釈放というのは到底許されるべきではない。当時のアメリカでは被害者の黒人やアジア人系住民の声は届きづらく、加害者の白人の地位が優先されるケースが多い。今作もそれが顕著に現れていた。これが差別、やるせない気持ちで本当に悔しくなる。育て方を間違えたと懺悔、息子との面会でぎこちなくも優しい笑顔を見せる父親に胸が痛くなる。父親は最大の加害者であり最大の被害者だったのかもしれない。

ジェフリーは終身刑を下され反省の色を見せることなく獄中暮らし。終盤は被害者遺族のその後と葛藤に描いた物語に変わる。ジェフリーの逮捕は全米で報道され、彼はフレディ・クルーガーまたジョーカー的な存在に変わりつつあった。被害者遺族は勝訴したものの彼の幻覚に悩まされ、彼の残した爪痕に一生苦しむこととなる。世間ではそんなことつゆ知らず、映画化や書籍化、彼の模倣犯、崇拝する者まで現れる始末。人種差別問題がここでも出てくる。まさに地獄絵図。もう観るに堪えない。彼の最期は獄中にてあまりに唐突で呆気ない撲殺、被害者達の気が晴れる訳がない。悲しんだの父親だけ、最後まで彼に寄り添った父親だけ。

この作品はジェフリー・ダーマーの幼少期から火葬までの出来事、死後の余波を余すことなく描かれていたのではないだろうか。正直いって彼の悍ましい蛮行を何度も観るのは地獄だった。しかもそれが10話もある。ここまでの評価ができたのは紛れもなくエヴァン・ピーターズの演技力。一概にそれだけとは言えないが、一気見してしまうほどの魅力が彼にはあった。彼を『X-MEN』のクイックシルバーで知った人はショックを受けたかもしれない。追悼の意を込めた最終話エンドロール、どういう感情で観ればいい?あと被害者遺族の許可無く作品を作って配信したのは本当?
しゅうへい

しゅうへい