長内那由多

メディア王~華麗なる一族~ シーズン4の長内那由多のレビュー・感想・評価

5.0
E1
ローガンが“城下”に降りればカメラはさらに滴り落ちんばかりの芳醇さで、いよいよ迫る王国の崩壊に内心、途方に暮れる彼の台詞は絶品。このシークエンス1つ取っても異様な完成度で、意地が悪いだけの『ホワイト・ロータス』S1には真似できないシェイクスピア的な重悲喜劇。

○撮り画像のせいで忘れがちだが、ローマンはS3の時点でGOJOを引っ張ってくる等、父親譲りの商才が覚醒し始めている(ヘンタイだけど)。今回も父への意趣返しに傾いている兄妹にやや一歩引いたスタンスなのが面白い。ケンダルはさっそくハイになっていて、危うすぎる。

E2
緩急巧みな作劇。シェイクスピア的な崩壊の重悲劇に悶絶もののギャグが挟まり、カラオケボックスでの破滅的な家族会議という、視聴者の誰もが身に覚えのある近しい光景にシフトして、巨大な父親を持ってしまった機能不全の家族ドラマとして僕達の目線にまで物語は降りてくる。
メディア王国のリア王に扮したブライアン・コックスはキャリアのピークに到達。ローガンは裸一貫で郷里からアメリカに渡り、一代で財を築いたアメリカンドリームの体現者だが、彼の知るアメリカは既に終わっており、無謀な駆け引きを「ビジネスの勘」と言う子供達に絶望する。
カラオケボックスでの暗澹たる家族会議に、今やアメリカには受け継がれる物もなければ、受け継ぐ者もいないのではと思えてしまう。やっぱり邦題は原題通り『サクセッション』(succession=継承)でないとダメだったんだよ。

E3
呆然自失。言葉も出ない。そして信じ難いことにファイナルとなるシーズン4はまだ7話も残っている。なんとここが頂点ではないのだ!!!
E2のエピソードタイトルが“リハーサル”というのも妙味で、周到に現代の天上人達の物語を僕達の目線まで下ろしてきてからのE3だった。今後は当然、(世界最大規模の)お葬式に家督問題という身近なイベントが待っているワケで、もはや身近なファミリードラマですよ。
演技とはリアクションだと常々言われてきたけど、E3は名リアクションの宝庫。アンサンブルでどう動いたらいいかわからない役者も、アンサンブルでどう役者を捌いたらいいかわからない演出家もこれを見たら明日からやっていけるよ。

E4
ドラゴンと首はねが無い『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』。王位継承へ向けての権謀術数の緊迫と、追従者達の狂騒が生む笑い。3シーズンを経て、僕達の兄妹3人への肩入れは十分。シヴはやはり現代アメリカのコーデリアなのかもしれない。
相変わらず口が悪いローマンだが、ここでは後ろ盾を失くしたケリーに対して気遣いを見せる(どんどん磨かれてきたキーラン・カルキン)。一方で綱渡りをするトムには毒づき、グレッグはただの“バカ”から“有害なバカ”へと悪化。ローマンは意思のない追従者どもを軽蔑している。
S4のケンダルには何度か物語の温度が高くなる瞬間があるのだけど、それはこれまで何度も描かれてきたように彼のメンタルヘルスに由来するものでもあり、より危うさの方が際立ってきた。あれはアンダーラインなのか、訂正線なのか。線1本で人物のトラウマを描出する脚本!

E5
同じ長男としては弟達と次元の違う問題でイッパイイッパイなコナーが愛おしくてもぅ…。
S3のトスカーナ編といい、アメリカからヨーロッパへ渡るとこのシリーズの空撮、様式、プロダクションデザインの非凡さがありありと分かる。怪優スカルスガルドに挑むキーラン・カルキン。S4E2の時点でマットソンと通じていたケンダル。彼の真意は何処にあるのだろう。

E6
毎週“オジマンディアス級”でヤバい。目の前で加速する崩壊に我々は成す術がなく、愚かな振る舞いが呼ぶ転落はしかし快感でもある。前半、サラ・スヌークが大車輪。キーラン・カルキンが中継ぎして、後半にジェレミー・ストロングが天才的なパフォーマンス。まだ4話もある!

E7
恒例パーティー群像で描かれるシヴ&トムとコナー&ウィラ、ジェリーとエバ、インドとリビング・プラスという対比。起死回生のケンダルには熱くなるが、いやいや抱えている地雷の数はマットソンと同じだろと。これまで物笑いの種だったコナーの選挙活動の顛末に驚愕。


E8
事前にS3E6を見て予習しておくといいかも知れない。メンケン初登場回。「オレには境界線がない。何でも引用する。アウグスティヌス、トマス・アキナス、シューマッハ、フランコ、H…いい事を言っていれば何でも拝借する」。
ローマン「Hって恐怖の総統か?」

E9
1シーズンにこうも“オジマンディアス級”を次々と投下できるものなのか。米TVドラマ史に残る名台詞(WGAの要求を呑めない連中は本作を見ていないのだ)、今年最高レベルの演技リレー(偉大なジェームズ・クロムウェル→カルキン→ストロング)。完全試合まであと1話!!

人を変えるのはやっぱり言葉なのだなと。あの弔事がケンダルを父から決別させ、完全覚醒させたのだと思う。「私もあの力が欲しい」と言って以後、ヒューゴーに対してもコリンに対しても、彼は自信に満ちた言葉で籠絡していく。
言葉を得たケンダル、言葉を発せられなかったローマン、言葉に力を持たせられなかったシヴ。弔事で三者のパワーバランスを見せる巧い脚本。彼らの前には長年、言葉を呑み込み続けてきたユーアンの厳しい言葉が積まれている。

E10
PeakTVの終焉。腐敗、権力化したアメリカンドリームが潰えても、新たなシステムがそれを“継承”するだけなのか?辛辣で皮肉、2010年代後半のアイデンティティポリティクスによって活気づけられたナラティブが、結局何も変わらなかったという結末。僕もただただ眼前のTV画面を見つめるしかなかった…。
長内那由多

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