ある劇団の舞台が中止となる。諦めきれない劇団員たちは日常のなかで稽古を続け、本番予定のその日に劇場に忍び込み舞台上で演じることに成功する。そんなプロット。
驚きなのはこれをワンカットで70分実施したこと。日常会話のなかで稽古が唐突に開始されるため、劇中劇がシームレスにはさまる感覚。演じてる方は休みなく感情を乱高下させなければならない。
その全編に登場する主演の森田想さんの負担は半端じゃなかったであろうことが想像され、ラストでカットの声がかかったあと泣き崩れる姿には心揺さぶられる。
森田さんは話題沸騰中の『辰巳』でも素晴らしい演技をしているとの噂。地上波でやることが異常事態のドラマ『滅相も無い』では怪演アベンジャーズみたいなキャストにしっかり最若手で紛れ込み、今週放送の最新第4話では戦慄の演技を見せてくれていた。今作が、2024年いちばんの要注目演技派の分岐点となったのは間違いないと思う。
松居大悟作品を追っかけはじめたところでいきなり相当変わったものを引き当ててしまった。エモの達人かと思っていたが、こんな変態的な作家性も持ち合わせた人だったんですね。
ただ、作品内における「日常会話」と「稽古」シーンの見分けを、画面アスペクト比で示してくれる配慮もあり、独りよがりではないバランス感覚もうかがえます。
ワンカット&劇中劇のアイデアを思いついた時点で、現実と虚構をごちゃ混ぜにするレトリックを用いたくなりそうなのに、そこを踏みとどまったのは推せる要素かと思いました。
ーーーーーーーーー
森田さんの次くらいに印象的だった青木柚さん。『よだかの片想い』で、最高キュートな告白をしていた原田くんの彼だ！全然印象がちがったなー。
ーーーーーーーーー
松居監督自身、森田さんにイヤーな感じでつらく当たる演出家役で出演している。前述のとおり、演技なの？どうなの？？がわけわからなくなりそうな状態なので森田さんは、ほんとに松居監督嫌になっちゃったんじゃなかろうか。
でも、松居監督は文句言わせないくらい自身も演技が上手い。いま日本の映画監督では北野武をのぞけば演技力1位じゃなかろうか。
