ヒムロ

Serial experiments lainのヒムロのネタバレレビュー・内容・結末

Serial experiments lain(1998年製作のアニメ)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

高度に発達したネットワーク上の仮想空間「Wired」が存在する世界。
中学生の岩倉玲音は「自殺した同級生 四方田千砂からメールが届いた」という奇妙な噂を耳にする。
帰宅してネットワーク用接続端末NAVIを起動すると、そこには千砂からのメールが届いていた。
「リアルワールドの肉体を捨てた」と語るメールをきっかけに、徐々に玲音の日常の境界が崩れてゆく…



まず大前提として98年にこの世界観を作っていたということが信じられないレベル。
攻殻機動隊など、歴史に残る近未来SF作品はほぼ未来予知としか思えない近似っぷりだ。
2024年の僕から見ればARゴーグルをつけて外出する人々のニュースも見たことあるし、SNSの発達によって人間のグロテスクな部分が社会問題になっているのは痛すぎるぐらいに痛感している。
まさにプレゼントデイ、プレゼントタイム(今、この瞬間)という感覚で見れたことは現代だからこその面白味があった。

ゲーム作品は未履修だが、アニメとは結構違う話らしいので気にせず視聴。

この手のSFにおいて肉体を捨てて上位存在になろう的な敵はありがちな設定だが、例に漏れずこういうキャラこそ人間的で面白い。
英利も人間全体を繋げるという目的で動きながらも、自身はプロトコルに情報を書き込み唯一神になるというエゴの固まり。
ましてやLainに肉体を与えるとかいう全く計画上必要ない(と僕は解釈した)事が原因で負けるのは非常に人間らしくて好きだ。
人格、つまり個とは何かが一つのテーマである本作においてある意味では最も個に固執しているのが彼だ。

玲音は加速度的に変化する現状とLainから入ってくる情報によってかなりパニックに陥るが、自身が何者なのかという追求を決して諦めない精神力を持っている。
創造主であるデウスに一度は負けるも、ありすという友人の力を借りて打ち勝つ。
ある意味では英利の理想の人格とも思えた。
対比的に精神が崩壊し退場してしまった姉の美香は玲音の対比、一般的な感覚の常人の役割だったのかなと感じた。


ストーリー的には幾つか考察など読んだ上でまだまだ余地のある面白い話、かつ難解すぎて気軽には人に勧め辛い内容だったが、そこを抜きにしても演出が素晴らしい。
学校からクラブへ、家族の食卓から暗い自室へ、ハッキリと分かれすぎている光と闇の世界を序盤は描いておきつつ、段々と混濁していく。
デジタルアニメでありながらブラウン管を思い出すような当時の独特の色合いが、現代人の僕からすると何だか不安感を覚える。
大人しく薄い存在感の玲音にリアルな瞳孔と虹彩を描いてくるあたりはこちらを覗かれているようでドキッとする。
まさにワイアードからリアルワールドへ侵食している描写として、見ている側だけが感じられる演出だと思う。


ところで「NEEDY GIRL OVERDOSE」というゲーム作品をプレイ済みで本作を見たのでニディガの元ネタ的な側面としても楽しめた。
人々の集合的無意識の中に存在するLain、それを「推し」という強めの幻覚として引用している作品だったのだなと感じた。
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