平野レミゼラブル

三体の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

三体(2023年製作のドラマ)
3.5
【三体・フロンティア~天才科学者、クソゲーに挑まんとす~ 】
全世界で3部作2100万部以上を売り上げた、中国発のSF超大作小説の実写ドラマ版。
来年からネトフリでドラマ版が公開されるってのは聞いていて、私も勘違いしてたんですが、今回試写で観たのはそれに先駆けて中国本国で実写化していたTVドラマ版だそうですね。
こちらは既に全30話が放映終了したようで、10月からは日本でもWOWOWで3カ月連続で放映されるそうです。

原作『三体』というのがまた複雑な作品でして、最初こそ全世界の一流科学者が相次いで謎の自殺を遂げる怪事件が起こり……というサスペンス形式なのですが、難解な科学理論や哲学的思想を軸に話がどんどん広がっていき、最終的に人類存亡の危機にまで発展するような相当に雄大なスケールで描かれた大河小説です。
正直、タイトルにもなってる「三体理論」を始めとした、科学的なアプローチに関しては何のこっちゃなんですが、中国における黒歴史である文革をバックボーンにした骨太の社会背景、行き過ぎた科学信仰と人類の発展がもたらしたどん詰まりな現代社会への警鐘、そして科学者と型破り刑事が迫りくる危機に風穴を空けていく爽快感といった多面的で奥深いエンタメ精神が確かにある作品でもあります。
ただ、今回の映像化範囲である第一部に関しては、設定を開示していく序章に過ぎない部分があり、映像化としては非常に地味めな印象を受けます。まして『三体』の見せ方って相当に独特であり、第一部に関しては全体の2/3近く延々とVRクソゲー(本当にクソゲーとしか言いようがない)をプレイし続けているだけ……という相当に攻めた作りなんですよね……

なので「WOWOW版は全30話で第一部だけの映像化だよ」って情報を小耳に挟んだ時の感想は「正気か!?」だったんですよね……
いや、だって本当の本当に終盤辺りまで行かないとVRクソゲー以外は画面的な見栄えが一切ないし、その割に会話劇は恐ろしく難解で飲み込みづらいし、そもそも本編の大部分を占めるのがクソゲーだしで、いや、本当に正気か……!?
中国じゃ3Dアニメ版も創られたそうですが、そっちはエンタメ的にわかりやすい盛り上げがある第二部の内容もミックスしたってことなんで、普通に映像化するならそっち路線のが安牌な気がするんですけどねェ……

で、実際に試写で2話目まで観賞したんですが、マジでビックリするほどに原作通りという。全世界で科学者が連続自殺というキャッチーな怪事件が起きていますが、あまりに淡々としているし、そして科学者達による難解かつどこか哲学的な科学談義が本編の主を占めています。
1話目がナノテク科学者のワンミャオとこの事件の捜査にあたる刑事の大史(ダーシー)の出会い、2話目にしてやっとワンミャオが撮った写真の中で謎のカウントダウンが始まる怪現象が起こるってところまでなんで、本当に話の進みは鈍重。まさか試写範囲で脅威のVRクソゲー『三体』プレイ画面まで行かないとは思わなかった……今回一番気になっていた実写部分だったのに……

ただ別に面白くないわけではないんですよ。むしろドラマとしてあの難解な会話劇を短くキュッとドラマの尺に収めていて出来は良い。出来事としては地味めな場面が続きますが、大史が詰めている捜査本部が博物館だったり、自殺した科学者ヤンドンの実験施設が近未来的なガジェット満載だったり、ビリヤードやりながらの例え話でボールが縦横無尽に飛び回る映像効果を使っていたりで映像的には結構リッチで飽きさせない工夫が凝らされています。
1話にして大体45分の放送尺ですが「Aパート→OP→Bパート→挿入歌パート→Cパート→ED」なので実質30分くらいですしね。挿入歌パートは前前前世をバックにいい感じの映像流してるようなパートのことです。楽曲の歌詞はこの先の展開を暗示しているのでニヤリとする。

唯一気になるのは原作の序章にあたる文革部分がカットされている場面。代わりにドラマ版の序章にあたる部分は、基地での信号を受信する場面へと変更となっていました。
一応、時折入る回想で文革めいた文言が聞こえてくるので完全になかったことにはしてないでしょうし、物語の構成としてワンミャオと大史回りの話をある程度進めてから回想していく作りなのかもしれませんが(文庫版では実際にそのような形に改変されたらしいし)、ただもしかしなくても本国の方で何らかの圧力かかって大幅カットせざるを得なくなったという可能性は否めません。
文革部分は『三体』における、とある重要人物の強烈な動機となる要素であり、この部分を薄められたりマイルドにされると大分物語全体のテーマが揺らいでしまうため、出来ることなら冒頭から時間をかけ鮮烈な形でやって欲しかったというのが正直なところではあります。
近年の中国作品はどの分野においても技術革新が起こっていて、高品質なものが増えてきてるんだけど、この当局からの規制部分が本当にネックなんだよなァ……

まあ、本当に1、2話程度じゃ何のこっちゃだし、この時点で総括なんて出来るわけがない作品なんですがクオリティとしては非常に高く、この先のあの場面やこの場面はどうなっているのか気になる部分も多々あるため続けて観たい作品ではあります。
ただ、これ遅効性SFの類ではあるので、どれくらいのご新規さんを取り込めるのかは未知数なんだよなァ……それこそ劇中の脅威のクソゲー『三体』のファンみたいに、選ばれたクソゲーマニアしか残らない可能性がある気がするぜ……

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