クェ虫丸

ONE PIECE FILM REDのクェ虫丸のレビュー・感想・評価

ONE PIECE FILM RED(2022年製作の映画)
4.3
ド傑作



まず痛いほど伝わってくるルフィの戸惑いがよかった
「やめた」とか「戦う理由がねえ」とか「殴る気もないくせに」とか、ともかく敵の形を見つけ出せずに苦しんでる姿が本当によかった

ルフィという男が打ち倒せる相手は、「仲間を傷つける敵」と「人の信念を汚す簒奪者」だけっぽいんすよね
ところがこの映画、その属性を持つキャラクターがなかなか出てこない

今の仲間たちは「大丈夫そうだな」とわざわざ言葉に出して念押しするほど傷ついておらず、「仲間」であるウタを傷つけたとされる赤髪海賊団もそんなことする訳がないと確信しており、「仲間を傷つける敵」がいない
新時代を求めてやまないウタの信念は暴力でへし折ったところで無駄だと、「人の信念を汚す簒奪者」を許さないルフィは身をもって知っている
倒して解決できる敵がいないんですよ

だからゴードンがネタばらししたら満面の笑みを浮かべてウタに手を伸ばす
だからトットムジカの現出で、やっとルフィにできるやり方でウタを救えるようになった
だから涙をこぼすし、海賊王になるという誓いを叫ぶ

ここらへん意識すると「当たり前だ」の重さが段違いに高まるんだよね、、
バウンドマンかっこいいと思ったのに人生初めてだわ



あと、責任感が強すぎたせいでひとりで勝手に潰れてしまったウタも痛々しくてよかった
目隠れ元気系幼馴染の前髪から黒く澱んだ瞳が見え隠れしたらそりゃオタクは落ちるよ

エレジア滅亡の真実を知ったウタはめちゃくちゃしんどかったろうな
自分の歌が人を傷つけ、そのせいで父と慕ったシャンクスに見捨てられたとしか思えないはずだから
ひとりぼっちになってからずっと拠り所だった歌と仲間の笑顔が全部牙をむいてくる

そこに「ウタに救われた」って人が出てきたら、まあ短絡的に「救世主になるよ」と言ってしまうのも無理ないわな
愛したものたちを傷つけ遠ざけるしかできない歌でも、誰かを救うことができるなら、それは道に迷ったウタの希望にするっと入り込んでくるんだよ
最悪だよ!!!!!!!!!!!!

クソリプだけ集まってくるSNSのエコーチャンバーで強化された思い込みを世界に拡散できる能力を持ってたのも最悪だった
何もかもが最悪の噛み合いを見せた結果がこれですよ



最悪の噛み合いといえばシャンクスやゴードンの愛も、ウタを思いすぎて悪い方向へ導く標にしかなってなかったのも最悪だったね
シャンクスは自分の船でできることを増やすべきだったし、ゴードンは傷つけることを恐れずにウタの世界を広げてやるべきだった

赤髪海賊団に女がいたらまた違っただろうなって一緒に見た人と話したけど絶対そうだと思う
一人でも女性がいたらもっと女の、というかウタの強さを信頼できただろうし、才能を育てるすべを模索するっていう選択肢があったはず
男世帯だから「俺たちには無理だ」ってなっちゃったんでしょ良くも悪くも

それがウタに対する最大の裏切りになるとわかってたけど、それでもウタと自分たちを信用しきれなかった
ラストバトルはゴードンもシャンクスもルフィも、全員ウタに謝りたくて仕方なかったんだろうなと思うと切なすぎる



責任感が強すぎるウタがあの頃となにも変わらず、お姉ちゃんぶりたいだけの子供だと端々の描写からルフィに叩き込んでくるのあまりにもえげつないでしょ
癖とか勝負とか衣装にあしらった麦わら帽子の絵とかさぁ

完全にあの日の思い出に囚われたまま止まってるからなウタは
身体と才能だけ成長してしまった歪さから逃げ続けてたゴードンもゴードンですが、、
ゴードンのエレジア王としての責任とウタの父親としての愛の板挟みになってる弱さ、好きです



この悲劇はウタがシャンクスの船から降りなければ起きなかったんですよ
やっぱpmsへの理解は男側にも絶対必要なんですよね、という映画でしたね
クェ虫丸

クェ虫丸