さいとぅおんぶりー

小説家の映画のさいとぅおんぶりーのレビュー・感想・評価

小説家の映画(2022年製作の映画)
5.0
ホンサンスの作品は「逃げた女」以降私の中ではハズレがなく常に最高点を出してくれるのですが今作はその中でも突出して好きでした、それ故にどの角度からでも語れるこの映画をどの部分に絞って書くか非常に悩む作品になりました。

まずこの映画は冒頭の謎の怒号から始まり画面外で物語りが展開していく事を明示しています、これはブレッソンの映画理論を拝借するなら「映画とはある出来事に間に合わなかったカメラによって事物の曖昧さを引き出すものである」ということになり、それを踏まえて観ると本来は物語りの根幹である映画撮影の決定も画面外のトイレで行われ映画撮影も画面外で済ませる事で一貫して省略を行い観客をある出来事に間に合わなかった傍観者として物語りが進行していく構造に気付かされます。

だからこそ、この映画は終盤の食事シーンで白飛びした窓からゆっくりと浮かび上がりカメラを見つめる少女の存在が際立っており、このシーンだけはカメラが「ある出来事」に間に合ってしまい観客と同じ立場の部外者が画面内に入り込み映画が映画でなくなってしまう恐れを観客に想起させると同時にこれが映画だと観客に気付かせる多層構造になっていました(おそらく今回モノクロで外の世界を白飛びさせて外部と内部を遮断させていたのはこのカットの劇的な演出の為)

ラストに全ての役者が画面外に出てゆき少女によって当事者にされた我々観客とキムミニだけが画面内に残される演出はアンバランス且つ精緻な作品構造にギリギリの一貫性を持たせていて、あまりの素晴らしさに涙が止まりませんでした。(レンズ越しに滲みでる溢れんばかりのキムミニに対するホンサンスの愛情も感じ取れましたよ)
つまりホンサンスめっちゃ好き。