りょう

ロストケアのりょうのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.6
 イチゴと大福は大好きですが、いちご大福は好きになれません。この2つは別々に食べたいです。
 これも余談ですが、ジャン・リュック・ゴダール監督は、2022年9月にスイスで安楽死を選択しました。フランスでも安楽死=自殺幇助は違法だからです。スイスのように社会保障制度がしっかりしているからこそ成立する法秩序なのでしょう。現在の日本で導入したら貧困ビジネスやら格差社会やらが深刻化し、まさに死生観が崩壊しかねません。
 ちょうど2年前くらいに早川千絵監督の「PLAN 75」を観ました。高齢者の尊厳死が行政手続として存在する架空の日本が舞台でしたが、少し冷徹に社会問題を提起する描写が秀逸でした。
 この作品にも共通のテーマがありましたが、介護士による殺人という犯罪行為が中心なので、サスペンスタッチです。おそらく原作にあるような問題提起はとても興味深いものですが、残念ながら、それを“自分ごと”として思考をめぐらせるだけの説得力がありませんでした。あまりに深刻なテーマにもかかわらず、演出と映像が軽妙でエンタメ指向だったからです。
 “殺人”を“救済”と主張して物議をかもす被疑者に検事も正論で対峙しますが、その検事の過去がうしろめたいものなので、あまりに空虚です。彼女の雰囲気が高圧的でありながら軽率なので、せっかくの問題提起がフィクションの世界にとどまってしまう印象でした。長澤まさみさんは好きな俳優ですが、この役柄は不向きだったと言わざるを得ません。
 自分の親族には老人福祉施設で働く介護士が何人かいるので、この業界の苦境(訪問介護はさらに)は理解しています。現実化している生産年齢人口の減少は、介護士の不足を深刻化させるばかりだし、両親を介護するための離職(失業)を回避するための施策もまったく期待できません。
 主人公の斯波が42人も殺害できた理由として「バレなかったから」という供述がありました。行政が高齢者のいのちを軽視し、ちゃんと死因を特定しようとしないからです。生活保護や死刑制度の問題もチラッと登場します。高齢者の尊厳死のほかにも、そうした重要な社会問題も描かれていますが、少し踏みこみ不足なところがもったいなかったです。
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