幽斎

BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズの幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
「Upper-middle class」日本語に訳すと上位中産階級。アメリカ的価値観が通用する国でしか用いられないフレーズだが、本来は社会的に相応な学歴と十分な資産を有する、教養ある知識人と言う意味。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

アメリカで全く無名のKristen Roupenianが執筆した映画用スペック・リスト(脚本の為の下書き)著作権保護で登録したモノを、インディペンデントの雄「A24」が青田買い。当初の設定は吹雪の山小屋でのスラッシャー映画。ソレをシリーズ最高傑作の呼び声高い「V/H/S/94」Chloe Okuno監督が下書きを完成させ映画化する筈だったが、作品を巡る見解の相違で途中降板。クレジットに名は残った。

困った「A24」は演出経験の全くないHalina Reijn監督を抜擢。Tom Cruiseで大コケした「ワルキューレ」出演したオランダ人女優。彼女が脚本を手掛けた「Instinct」まぁまぁ面白いスリラーが決め手に成る。本作は「フーダニット・スリラー」。レビュー済「ハッピー・デス・デイ」新たな客層を掴んだのは記憶に新しいが、本家と言えばレビュー済「スクリーム」。Okuno監督が降板したのはミステリーとスラッシャーのサジ加減。本作は文字通り「Z世代スリラー」と言える。

ホラーとミステリーの融合に成功したのが、私のベスト1「SAW」。スラッシャーと云われるとチト違う気もするが、本作は「ハロウィン」「スクリーム」老舗の味を、現代のバズり易さを求めるZ世代の為に「Retro fit」新しく換装して創られた。最近のホラー映画は他のジャンルに先駆け「Queer」LGBTQのQの意味、男女以外の性自認をプロットに掲げる作品も増えた。ホラーを単に怖い映画だと見下す方は、顔を洗って出直した方が良い。言ってやりましたよ!、ホラー映画フォロワーの皆様(笑)。

主演「ディア・エヴァン・ハンセン」Amandla Stenberg、自ら資金提供して制作。彼女は「Non-binary」性自認に枠をハメないセクシュアリティを公言してるので、本作への抜擢は大正解。共演がレビュー済「続·ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画」長い(笑)、ブルガリア出身Maria Bakalova。2022年北米劇場公開作品だが、日本では配信スルー。スラッシャーと書いてるが、グロくないので、ホラーが苦手な女性にも観て貰いたくて創られてるので、私を信じて(笑)。

鑑賞前に注意して頂きたいのが「Hurricane party」。アメリカの沿岸部で開かれる社交イベントで、ホストの家に停電を想定して食料を持ち込み、数日滞在する。巨大なハリケーンが来れば死人も出るが、日本人なら「何で嵐が来るのにパーティピーポーなんよ」ツッコまれそうだが、割と一般的なイベントなのでお気に為さらず。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

ミステリーが専門の私的には現代版「そして誰もいなくなった」観れて満足(嘘(笑)。基本は「スクリーム」同様に、犯人は分らず一人ずつ死んで逝くスタイル。ハリケーン・パーティなので、自動的にクローズド・サークルがセットされるが、タイトルのボディーズ・ボディーズ、アメリカでは定番で日本で言う人狼ゲーム。コレが「見立て殺人」に見えるのが地味に効いてる。アホな振りしてプロットは見事に整うので、ミステリーに寄せた監督交代は功を奏してる。其処に「A24」らしいクイアが絡む事で、疑心暗鬼な人間関係も現代風にアレンジされ、見事な仲間割れが勃発する。

聞き逃せないキーワード「Gaslighting」日本の皆さんには馴染みの薄いフレーズだろう。英米のミステリー小説では良く使われるので、覚えて帰って下さい。相手に誤った情報を与え、自分の認識を疑う様に仕向ける、一種の心理的虐待。台詞の中で「"Gaslighting" is ridiculous」アッパー・ミドルクラスすらバカにする。無自覚な特権階級差別はハリウッドのトレンド「Misogyny」女性らしさに対する嫌悪や蔑視も示唆する。ニューヨーク・タイムズの批評家が「95分間Amandlaの胸の谷間しか残らない」と書いて猛バッシングされた。当のAmandlaは「貴方のレビューは素晴らしかったわ」余裕綽綽(笑)。

ガスライティングが強迫観念へと変質、リッチピープルが墓穴を掘るのは清々しいが、世の中はネットでマウントの取り合い「毎日、こんなお茶してまぁす」インスタ映えに余念が無い。一見するとスマホのライトしか無い様に見える撮影にも注目して欲しいが、暗闇に映し出されるのはコミュニケーション・ツールのSNSで実はコミュニケーションが取れないZ世代へ警鐘を鳴らす。

停電する→WiFiが使えない→スマホの電池が無くなる→充電できない→詰んだ(笑)。Z世代はDigital nativeで、無料のコンビニWiFiが当たり前。何か伝えるにも色んなツールが有るが全てネットで完結、テレビも新聞も見ない。電波が無ければ何も出来ないと勘違いする、ソレを痛烈に批判する事も忘れないのは、良いホラーのお手本と言える。

オチの破壊力も中々のモノ。私のベスト1「SAW」を彷彿とさせるラストは、アサヒ・スーパードライ並みのキレ味。電波が無い事を逆手に取るトリックは、コレが見せたくて「A24」は素人脚本家の下書きを買った。レビュー済「X エックス」の様にフォーク・ホラーはラストの決めセリフが面白い。戻って来たマックスに字幕では「スマホが繋がった」と言うが、英語では「I have reception」意味は分りますね?(笑)。クイアとして安易なLesbian Surviveに逃げず、正面から捉えた女性監督らしいエッセンシャルと言える。

Z世代と古典のフーダニットの見事なアレンジメント。停電設定なので暗くしてね(笑)。
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