キヲシ

ザ・クロッシングのキヲシのレビュー・感想・評価

ザ・クロッシング(2021年製作の映画)
4.0
アマプラ配信停止間際、見てよかった。アトリエ内部の実景からテーブルのデッサン帳を捲り始めると、ナレーションが流れ「これは父、これは母、双子の弟たち、故郷の人々、もうこの人たちはいない…」。そして、森の中を鮮やかな黄色いブラウスを着た少女と少年が現れる。絵が動いてる。手書きアニメーションだ。樹に登り赤い小さな果実を黒い小鳥と分け合い食べる少女。自分たちの村に立ち上る黒煙が映る。見る間に広がっていく。見知らぬ都市のスラムに紛れた二人。弟が加わる黒マントの窃盗集団がカラスの群れのように画面を舞う。姉はゴミ山で見つけた指輪を黒い小鳥に譲り、リーダー格の顔を含めた全身刺青少年との淡い恋は引き裂かれ、二人は「愛と憎しみの伝説」(フェイダナウェイの呪われた作品、未見!)の世界へ。この後、逃げ出した禁断の森で吹雪きに見舞われる場面が素晴らしい。犬(その息で雪の中から少女の顔が浮き出る)と暮らす全身刺青の老婆とのつかの間の平穏。森の泉で沐浴する場面も美しい、もう少女ではない。弟と再会するサーカスにはマダムが。立ち寄る町の窓の灯り。増える兵士たち。サーカスのハンサムな青年とともに国境手前で捉えられ、鉱山に設けられた収容所に。高熱で苦しむ姉を救うのは赤い小さな果実。それを手配したのはあの全身刺青少年。絶望的な収容所生活だが、姉を巡る三角関係が発生!原題「la traversee」は「越える」という意味。
監督フローランスミアイユの母をモデルにした作品。母と叔父はウクライナのオデッサからフランスに逃れてきたそうだ。ガラス板に描いては少し削って書き直し、背景と重ねて一枚また一枚撮影を繰り返す。制作期間10年…そりゃあ、見応えあるわ。
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