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正欲のBitdemonzのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.3
原作未読。

月並みな言葉だが、「世の中には色々な人が生きている」のだ。それこそ厳密に言えば全ての人が同一ではなく、社会という大きな枠組みの中にある「普通」というおおよその人々が考える概念に寄り添うカタチで“擬態”しているといってもいい。

そしてその「普通」による“生きづらさ”がここ最近にきて“表面化”してきた。またそこに寄り添うカタチでこれまでの普通も変わり始めており、そこに新しい生きづらさが作られる可能性もあるかもしれない。

この作品での良かったと思える点は(当然主観だが)、「このような人がいる」ということを淡々と描き、それについての是非や善悪などの深掘りをせずに、俯瞰的な群像劇として描くことに徹していると感じた部分だ。

個人的な趣向で他人を傷付けてしまうことは「良くないこと」とされているが、そこに至る点についてすらもあくまでも並列(「普通」の範疇により処理される部分は描かれるものの)に語られ、妙な「押し付けがましい」ものが無いのだ。

むしろ「押し付けがましい」のは、あたりまえを“無自覚”に強要する“社会”であり、描き方としてはそれを“悪”とするようにも見えなくもないが、そこは登場人物らが劇中で語る“別の惑星に留学してるような“視点でのシーンによるところであり、俯瞰的にという意味では「普通側」の代表と呼ばれる人間も登場させることで、“全てを並列に一旦置いてみる”という試みなのだと感じ、そうした点も含めて答えの出るものでは無いモヤモヤを残す着地はむしろ必然だと感じる。


理解をする必要はない。
恐らく造り手も演者も全ては理解出来ない。それも「普通」であり、理解されない側からはその「普通」が理解出来ないこともまた「普通」なのだ。それらを全て引っ括めてが本当の普通であり、「こんな人がいるんだからみんなそこに合わせなきゃ!」という新しい「普通」もまた歪だということを示しているようでもある。

「普通ってなに?常識って何?」と、どこかで聴いたライム。そして“荷台を引く馬が坂道を駆け上がる”のを見る事で性的興奮を得る人の話を聞いた事がある。この2つを特に思い出した。




「だから~すべき」ではなく、「居るんですこんな人も」というだけ。そこにものすごく優しい印象を受けました。

また、この生きづらさの中で、それを共有出来る相手と出会えた登場人物らの環境が非常に羨ましくもあり、彼らが「普通」に寄り添おうとしている姿にはある種の微笑ましさや愛おしさもあり、中盤はかなりじんわりきました。

全くキラキラしてない新垣結衣がまた良くて、ある意味『逃げ恥』的な構図がまた皮肉的というかなんというか、磯村勇斗も『渇水』でのクライマックスのシーンが違ったカタチで被ってくるという辺りにも、へんなところで個人的に引っ掛かるところは良かったです。
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