監督の前作『ビバリウム』がかなり好みだったので期待しての視聴、しかしながら意外にもオーソドックスな作り故に“一般的に”観やすい作りなのは些か拍子抜けした感も否めない。
だか、たしかに全体的なストーリーだけで見ればある意味で古典的過ぎるゆえに大きな新鮮さには欠けるが、随所に垣間見える独特な“イヤな”ビジュアルは“らしい”と言えばそうだ(イヤな事を考えつくもんだ)。例えば冒頭から出現する“腐りかけの犬が全身を振って飛び散るマダニが自分に向かってくる”なんてのはとんでもない嫌悪感…
…ところが、コレがこの嫌悪感を逆転させる社会風刺的なテーマが見えてくる作りになっている辺りも含めてやはり監督のやりたい事は一環しているのかもしれない。
大量消費社会によって人々の暮らしは便利になっていく一方、消費される商品を作る環境、つまりは「搾取構造」については軽視されがちである、という内容をシンプル、ストレートに伝えてくる作品だ。
なんならこれも冒頭からあった。
新製品のブランド服の生産数を「インドに安い工場があるからそこで作らせればイイ」と。
一見、作り手や提供する側だけを問題視しているようだが、不便を憎み快適を欲しがる日々を消費している我々も例外ではなく、「誰かが笑顔の裏側では必ず誰かが泣いている」ことを“こんなにわかりやすく”しなければいけない事自体が、ひょっとすると監督からの最大の皮肉なのかもしれない(前作の難解さから比較すると)。
昨今も話題になってる“そこそこ質の良い格安ブランド”の“実情”がスグにうかびましたが、それだけじゃないですね。
旗振ってるだけで上手いメシ食えてる連中は、振り回されてボロボロにすり減っていく現場を見ることも無く、ダメならまた別の方向に旗を振るだけ。
だったら旗を振る側になれ、と言いますが、そしたら他の誰かが代わりにボロボロになっていくだけですよね。
もっと上手な“旗の振り方”があるんだと思うんですが、これはみんなで振らないといけない旗なのかもしれないですね。