七色星団

aftersun/アフターサンの七色星団のレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
父カラムと娘ソフィ、20年前に父娘で過ごした短いバカンス。
喧嘩もしたけどひたすら楽しかった思い出しかない父と過ごした日々。そしてソフィにとって甘酸っぱい思い出も紐付いている。
あの思い出のバカンスを収めたビデオ映像の記録。それを見て呼び起こされる記憶。
当時は気付かなかったけど、父と同じ歳になって映像を振り返ると、分かるような気もするし、やっぱり分かりようもないのかもしれない。

あの当時の父を苦しめていたものの正体が何だったのか―

そして、あの父との時間があったから今の私がいる。


と、大まかにはこういうストーリーでしょうか(異論はあるでしょうが)
余白部分が多く解釈を観客に委ねる作品だけど、だからこその観る側の自由も満喫した。
映画を観終わっても随分と頭から離れなくて余韻のお化けみたいな作品だったなぁ。

とにかくこの作品、好きなのに人に勧めようとした時に説明が滅茶苦茶ムズくないですか?オススメポイントを人の興味を惹くように言語化するの、僕には無理です。
「とにかく観て!」
しかない(笑)
つまり全然咀嚼出来てない!宣言なんですが、観る人を選ぶ作品でもあるよね。

カラムとソフィ、二人の役者の演技が自然で、ここまで出来るものなの?と。
もはや休暇を楽しむ父娘の本当の記録映像のようにも見えてしまうという凄さ。

ソフィだけを追ったシーンでも同様に11歳の女の子の無邪気な姿を捉えながら、一方で子供から一瞬で大人のような表情・仕草をコロコロ変化させて見せるソフィの姿をこれまたナチュラルにカメラは写し撮っている。
そう言えば現地で知り合った大人っぽい年上の女の子達を見るソフィの視線は、憧れというより異性をを見るような視点で撮られてた気がするけど、どうだろう?この時はまだ意識はしていないけど、ソフィ自身の目覚めを捉えたシーンなのかも。

そしてカラム。彼を追うカメラだけはトーンが変わる。高い場所に立ったり、バスが来る直前の道をギリギリで横切ったり、夜の海に入っていくなどの彼の行動の不安定さから、今彼が直面する心の危うさが際立って観客の心もキュッと不安にさせる。
"死にたい人"という演技をしていないのに彼の姿には死のイメージが常に付きまとってるの凄いとしか言えんよ。

もう、ずっと凄いしか言ってないな…笑

象徴的に繰り返し挿入される、クラブのような明滅する光の中で踊るカラム。
これは現在のソフィがイメージした父の姿なのだろう。もがく様に踊るカラムに近付き、そっとカラムに手を回すソフィの姿に目頭が熱くなる。

"生きたい場所で生きろ
なりたいものになれ"

眠りにつくソフィへの父カラムの言葉が沁みる。

感動というような言葉では括れない、切なくて哀しくて温かい物語。
七色星団

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