月うさぎ

バック・ビートの月うさぎのレビュー・感想・評価

バック・ビート(1993年製作の映画)
3.5
THE BEATLESのデビュー前、ハンブルグの修行時代にフォーカスした映画。
最近よくある「出来事はほぼ実話でエンタメ味付け」というスタンスではなく、半分はフィクションの映画です。
ビートルズのではなく、スチュアート・サトクリフ物語なんで、そのつもりで観ましょう。

ビートルズ達がハンブルクでライブ演奏をする映像は存在しないので、この映画での再現はなかなかに楽しい。
演奏シーンは良くできているので、ジョンの声がもうちょっといい声ならば…。演奏吹き替えは上手いので全然OK。もうちょっと声が似てたらいいのになー。
ビートルズの曲は1曲も使われていませんし、オリジナル音源も無し。
それでもビートルズ感はたっぷり出せるってことは、他の映画制作する方も参考にすべきだと思うんです。ボウイの「スターダスト」なんか本作に比べれば半端な作りとしか言えません。

ビートルマニアはビートルズが絡んでいればなんでもありがたがる人と、少しでも異なる点があると許せない人がいますが、私はその中間です。が、レビュー、長いですよ〜。予めご承知おき下さい。

褒めたいところ
・スチュアートを主人公に選んだ事
物語の自由度、ドラマ性が抜群です
・ビートルズを綺麗事にしていない
・ポールの再現率が完璧。表情抜群です!
・ライブシーン、カッコいいですよね!
・アストリッドがビートルズ達の写真撮影をするシーンの再現度。かなりのレベルです。
・イアン・ハートはジョンのちょっとおっかない感じを上手く出してましたね。でも、ジョンよりも息子のジュリアン・レノンにより似てると思うんだけど。

納得してないところ
・ジョージを蔑ろにしすぎ
アストリッドが撮影したジョージの造形的な美しさに程遠いキャスティング
女性の感性で観れば彼の哀愁の天使みたいな美が発見できるのですが、男にはどうもわからないらしい。なんで?
笑わないジョージはホント美しいです。
役者もふけ過ぎ。17歳ですよ〜!見えないでしょ。この頃の彼は年齢相応に見てくれも少年ですよ。
晩年のアストリッドさんの部屋にはその頃のジョージのアップの写真が飾られていましたよ。ジョージを個人的に好きというのではなく、彼女の審美眼に適った素材だったのです。
あとね。ママがべったりくっついていたのもピートで、ジョージではありません。ジョージはホントの不良です。彼はジョンよりも学校、真面目じゃないんですよ。実際はジョンにイジメられても平気なタフガイです。キャラ変があまりに悪意。

・リンゴを登場させるやり方
寝てるだけのリンゴってないよね。ビートルズと同じクラブで演奏していて、ピートの代わりにステージで共演してたこともあるのに。しかもリンゴと最初に個人的な接点を持ったのはスチュアートその人だといいます。少なくともスチュだけがリンゴを知らないでこいつは誰だ?なんて言うのはあり得ません。

・強制送還
未成年のジョージが夜中のクラブで働いている事で警察に逮捕。強制送還。
これ、スチュアートは一緒に帰ってないです。俺たちグループなんだ、なんてスチュアートは言いませんよ。実際は一人で逃げてます。ジョージよりアストリッドと別れたくないでしょ。

・アストリッドのキャラ
なんか微妙に違う。アーティスト感を強調しすぎなんじゃないかな。
ショートヘアに黒のレザー姿でオープンカーを運転する姿は、年下のビートルズにとってカッコいい姐御。でも魔性の女ではなく可愛い人。憧れの女性です。映画の中のジョンの態度は事実ではあり得ないですね。それと彼女は実家で親と暮らしていましたので、ビートルズ達は実家にお呼ばれしています。母親つきでのお付き合いがありました。
そしてスチュアート亡き後もビートルズ達とはずっと良き友人であり続け、親交はずっと続きます。クラウスと共に。

・スチュアートの死
三度目のハンブルグ巡業の際、空港に出迎えたアストリッドの口から彼の死をメンバー全員が聞いています。その時のジョン・レノンはバカ笑いした。有名なエピソードです。
彼にとっては到底受け入れられないニュースだったのです。ヒステリックな反応をしたのでしょう。
すぐに涙を浮かべてアストリッドと抱き合うと言うのは安っぽい演出だと思います。

・演奏曲とスタイル
Twist and Shoutですが、この時点でこの曲は存在していません。ビートルズがカバーしたこの曲のバージョンは1962年5月リリース。だからこれは嘘。
また、この頃のビートルズはリードヴォーカルはいませんでした。ジョン、ポール、ジョージがその場その場でリードをとっていた。ピートさえも歌ってたらしいです。持ち歌はありますが厳密には決まってません。参考までに。

最後にアストリッドの価値について
・ファッションセンス
多大な影響を与えています。
映画の中に描かれていた通り、彼らの髪を切ってあげていたようです。諸説ありますが、モップトップと言われるようになった彼らのヘアスタイルは彼女がリーゼントをやめさせたことに発すると言われています。

彼女の真似して革ジャンを着るようになったビートルズ。ノーカラージャケットに変えさせたのもアストリッドと言われています。彼女自身がお仕立てしてあげたそうです。

顔の半分を蔭に隠す、後にハーフシャドーと言われる撮影法はアストリッドの写真に観られます。ウイズ・ザ・ビートルズのアルバムジャケットは彼女の写真のように撮ってくれとビートルズがリクエストしたのです。

おいおい。ここまで語ってマニアじゃないって?
そうです。こんな程度ではマニアの足元にも及ばないのです。
ビートルマニアの方、失礼しました。
間違ってるところがあっても頼むからイジメないでね(^^;)
月うさぎ

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