緑青

名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)の緑青のネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

スピッツが主題歌を歌うなら映画館に行こうと決意して初日朝に観た。
まずパシフィック・ブイが出てきた瞬間「今の日本でこんな巨大で技術力のある施設を作るのは無理だろうなあ……」という感慨に囚われてしまった。この要素がもはや一番ファンタジー度合いが強いかもしれない。
あと念のため指摘しておくなら、人種差別/国籍差別/男女差別に関する描写はなんとも微妙なところにあった。差別反対を主張しながら、開発したのが「老若認証」というのは理論が飛躍していやしないか。飛躍しているというか、どうしてそれが差別のない世界に繋がるのか理屈がわからない。AIを用いて情報を集め、それぞれの骨格等の変化を予測して認証するなんて、言ってしまえば初期近代の博物学的な、すごくよろしくない匂いがするのに反差別に繋がるのか……?
その後一番動揺したのはピンガ扮するグレースの正体を暴いた時で、コナンくんの「本当は女性じゃない」という旨の台詞である。それはちょっと昨今の、トランスジェンダー差別に対して敏感になっている私のアラートをヒュンとかすらざるを得なかった。なんという怖い台詞だよ。もっと言い方あっただろ。場合によっちゃ一発退場のセリフだよそれは。おそらくコナンくん(というか新一)は「男性」なのだと思うが、その彼が「あなたは女じゃない」とみんなの前で宣言するのはあまりにも恐ろしい。今回たまたまグレースはピンガだったわけだが、その証明の仕方が「女の人にありがちな動作」からというのはちょっと古臭すぎやしませんか。それなら直美にその動作をさせるのはやめて、「あなたが典型的な女性の仕草だと思い込んでいる動きを努めて行なっていたことが裏目に出ましたね、 目立っていましたよ」くらいのことは言ってやれば良かったと思う。この展開部分は重要なだけにすごく気になった。古今東西この手の(異性装がトリックになる)ミステリーは数多くあり、無論名作も多いだろうが、流石に現代でやるにはメタ的な視点を探偵側に持たせないと厳しいんじゃないかなと感じた。他にいくらでもやりようがある。ただ、アニメーションという媒体の特性で、絵の上では完全に違うキャラクターとして描けてしまう中で、声優は双方を演じるという観客への誠実さはミステリーとしての矜持だなと思った、その点は純粋に良かった。
他に良かったな、と思ったのはやはり最後の展開で、正直水中テレパシー会話後の「キスしちゃったんだよ」はノリ切れなかったのだがその後「唇を返し」、主題歌のドラムスが入った瞬間に流石にウワーー!とテンションが上がった。灰原哀、キャラクターとして最高すぎる。こんなん、応援上映があったらラストで全員「哀ちゃーーーーーん!!!!!!」と叫ぶよ、わかる。あと、ライバボの件はもはや笑ってしまった。コナンくん、仲人として優秀すぎでしょう。二人は毎年お中元とお歳暮を欠かさず工藤家に贈ってください。熨斗を連名にして「結局惚気じゃねえか!」ってうんざりされて仕舞えばいいよ(暴言)。また、今回ウォッカが可愛すぎました。ついていく人間を間違えただけで、ちゃんとした組織に所属すればそこそこ上り詰めるだろうに…と思わざるを得ない。あとはね、今回、女性陣が本当にずっと活躍していたところは最高で、哀ちゃんと直美のシーン、キールが裏から手助けするシーンはシスターフッド的な連帯も感じて「おっ!」と思った。蘭姉ちゃんについてはもう、国際的な犯罪組織のトップエージェントと渡り合えることがわかったので、そのうちオリンピック連覇とかしてくれないかなと思います。新一と博士の関係性の強さが観られたのも良かったなあ。
潜水艦映画は『ハンター・キラー』を観てからちょっと好きなので、チャンスがあったらもう一回行きたいなと思います。
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