緑青

ドラゴン危機一発の緑青のレビュー・感想・評価

ドラゴン危機一発(1971年製作の映画)
4.2
号泣した。泣くなんて思ってなかった。めちゃくちゃ泣いた。最後「終劇」が出たところで決壊した。どうしてブルース・リーのアクション映画は、こんなにも強い悲しみに満ちているんだろう。楽しい場面も笑える場面も、かっこいい場面もあるのに、芯は怖くて、固い怒りがあって、そしてとてつもなく強烈に悲しい。
ぜんぜん危機一発じゃなく、危機重ね重ねの展開。お母さんから貰ったペンダントを思い出すたびに毎回流れる効果音じみたBGMとか、あきらかに作り物の血とかをちょっと笑いながら観てると、だんだん夢中になって笑えなくなる。彼の映画において、戦うことは前提として「暴力(他者に向けるべきでない物)」で、彼はそれを基本的には避けたくて、初め微笑んでスルーするしグッと耐えるんだけど、抵抗せずにいたらどんどん相手の手中にハマり沢山奪われ、とうとう爆発して戦う、が、それが更なる悲しみを齎すことになる。香港映画のこと、ご覧の通り大好きだけど、こんなに打ちひしがれたのはちょっと覚えがない。ブルース・リーはすべてを理解して演じていた。支配者がいかにして情報を操作し、ガス抜きをし、分断を仕組むか、愚直さゆえに翻弄され、仲間を失い、その悲しみから狂おしい抵抗へともつれ込んでゆくさまを。
この映画はちょっとスプラッタというか、スリラーみたいな要素があって、その演出はエンタメとしても効いているんだけど、凄く好きだった。ショッキングなシーンの直後のブルース・リーの、抑えた芝居に込められた衝撃・悲しみ・悟り・軽蔑・徹底的な失望のようなものがあの映画をチープにすることから救っていると思う。
めちゃくちゃ良かった。ブルース・リーよ、永遠なれ。
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