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君たちはどう生きるかのBitdemonzのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.7
作品に関する事前情報が一切無いという近年では珍しい公開方法だった点が大いに興味をそそられ、これ迄ジブリ作品を一度も劇場で観ることがなかったが足を運ぶキッカケにはなった。

どのような作品か全く分からない状況で、未知の空間に誘われる感覚、体験はとても貴重であり、興奮した。大筋はシンプルなストーリーながら、主人公が突入する不思議な“世界”には具体的な説明は明言されないものの、多様な解釈を持たせる含みが感じられる一筋縄では行かない、これまでの同スタジオで作られた作品群(全ては観てないが)とは一線を画す内容に個人的には満足出来た。

ありきたりな新作(恐らく多くの人はコチラを望んでいたのではないだろうか)だったとしたら、あくまでも面白かったか否かの感想になりそうだが、正直なところそのどちらとも言い難い不思議な作品であることは間違いなく、理解する事よりも直観的に味わうアート思考の趣きが強い、これもまた恐らく多くの人が嫌う傾向のありそうな「雰囲気系(と呼ぶかはどうかは知りませんが)」の作品であったことは、評価としての判断基準が「すき」か「キライ」かというところになってくる。

そういった意味で、確かに映像的に刺激があって目を見張るシーン(特に集合体が蠢く表現やアオサギの中身が出てくるビジュアルなどはゾクゾクさせられた)は幾つも展開され、映像的な面白さはあったと思うが、そもそもジブリ作品にそこまで思い入れが無い、また絵柄や世界観などでの好みがあるワケでもない自分としてはそこまでハマれるものではなかったのが正直な感想になってしまう。

テンポ感に関してはややゆったり目で、もう少し緩急のあるものだったら多少印象は変わっていたかもしれない。

原作は未読だが、恐らく“世界”への導入の役割を果たすアイテムとして機能しているもののみではないかと推測できるので、タイトルはあくまで“引用”ということか、若しくは劇中の主人公の行動原理等が原作とリンクしている部分もあるのかもしれないが、その辺は判断出来なかった。

劇中に登場する様々なオブジェクトから過去作品からの類似点を見出すことができ、その“世界”が監督自身の持つ世界観の投影、またその“世界”の後継者を探すという創始者の願いが語られるくだり、そしてそれに対して主人公が選択する意思は、正しく「君たちはどう生きるか」という核心になる部分だと思うが、監督自身が誰に対して向けたメッセージなのか、読み取り方の解釈で色々と取れるのは投げっぱなしとみるか、興味深いとみるか。


個人的には自分の中だけの完璧な世界を作って閉じ篭もるより、完璧じゃない歪な現実を一生懸命に生きなさいよという…

…なんともエヴァンゲリオン的な、そういう着地に。勿論これは自分なりの解釈です。
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