むさじー

アンダーカレントのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーカレント(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<人間の不可解さ、分かるという幻想>

家業の銭湯を継ぎ、夫の悟と共に幸せに暮らしていたかなえだったが、悟の突然の失踪で途方に暮れる。一時休業してどうにか営業を再開させたある日、堀と名乗る謎の男が現れ、住み込みで働くことになった。友人に紹介された探偵に依頼して悟の行方を探しながら、堀との奇妙な共同生活を通して穏やかな日常を取り戻していく。夫はなぜ消えて、男はなぜ現れたのか。
タイトルは「心の底にある思い」のような意味で、「人を分かるってどういうことですか?」と問う。人は心の底に自分だけの秘密を抱えていて、真実とか本音だけでは生きられないから嘘をつく、他人にも自分にも。そして他人の嘘に隠された真実を知るのは難しく、そのことで関係が壊れてしまうのは怖い。結局、偽りも本当も抱えた他人を全て受け入れることでしか人の関係は成り立たない、と思えてくる。
印象的なのは、原作にはないというラストシーン。犬と散歩するかなえの後を、一定の距離を保ちながら堀が付いて行く。解釈は様々だが、二人はそれぞれが抱えたトラウマを全て受け止めた上で、それに向き合っていこうとしていて、この距離はやがて縮まるものという希望を感じさせる。どこかポジティブな余韻を漂わせているがモヤモヤは残った。
そして男二人の行動の「何故?」ははぐらかされたままだ。動機不分明も人間の不可思議さの一つだが、よく分からなくても自分と向き合うこと、話すことと分かろうとすることは大事だよ、というメッセージはうかがえる。
やや冗長だが、それ自体物語に影響しない不要と思えるシーンが作品の空気感を醸成し、描き過ぎない配慮が余韻を生んでいるように思えた。
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