むさじー

Mommy/マミーのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

Mommy/マミー(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<家族と生きる、捨てるということ>

冒頭、S-14法という架空の法律が紹介される。障害児の親が危機的状況に陥った場合、親の意思で子どもを施設入所させることができるというものだ。
定職のないシングルマザーのダイアンは、注意欠陥多動性障害で施設にいた息子スティーヴが騒ぎを起こして強制退所させられたため、引き取って二人での生活を始めるが、感情の起伏の激しさと衝動的な行動に頭を悩ませる。そんなある日、向かいの家に住む女性カイラに出会い、休職中の教師である彼女の助けを借りて、三人での支え合い生活が始まった。
母も息子も互いに愛し合い共依存の関係にあるのだが、彼の頻繁に起こす暴力的で非常識な行動に、周囲も自らも傷つく様が繰り返し描かれる。その描写があまりにリアルで痛々しく、観ているのが辛かった。ただ母親の愛だけでは支えきれない、そのことはヒシヒシと伝わってきた。
そして終盤、スティーヴを強制入所させた後、まもなく引っ越すというカイラとダイアンが、それぞれの思いを胸に静かに対峙するシーンが強く心に響いた。「私は家族を捨てられない」と言うカイラに、ダイアンは「スティーヴを入院させたのは希望を抱いているから」と語る。
その希望とは、学校を卒業し結婚して家庭を持つ、という彼女がかつて抱いた平凡な妄想とは違っていたはず。衝動的な自殺未遂を目の当たりにして「せめて生きていて欲しい」というもっと切実な望みのように思えた。本当は「私も家族を捨ててはいない。二人して生きるための選択だ」と叫びたかったに違いない。泣き叫びたいのをこらえるダイアンの表情が目に焼き付いて離れなかった。母親である彼女の何ものにも屈しないという愛の宣言のように思えた。
母と子という、他人には理解し難いかけがえのない存在であるが故に、その愛憎関係に終わりはない。そして思いは見えても真の希望が見えないエンディングには深いため息しかない。暗くて重いが凄い映画ではあった。
むさじー

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