Rickyy

アナログのRickyyのネタバレレビュー・内容・結末

アナログ(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

脳に障害が残り、意思疎通が難しくなってしまった家族を持つことは、本人にとっても家族にとっても辛いことだ。変わり果てた姿に回復の望みは乏しく、生涯続く介護に疲れてしまうこともあれば、生きながらえてしまったことに苦しみを感じる人もいる。一方で家族を亡くした経験を持つ人はいう。「まだ、生きているじゃないか。死んでしまったら、人は戻ってこない。」だが、生きていても、もう在りし日のかつてのその人は取り戻せないという絶望もまた深いものであることは間違い無いだろう。
主人公の悟はそんな葛藤を(心の中では誰よりも苦しみながら)軽々と乗り越えてくるのだ。板谷由夏さん演じるみゆきさんの姉の演技が光るが、家族としての上のような葛藤も、包み込んでしまうほどの大きな想いを捧げることで彼はみゆきさんと一緒にいることを選び勝ち取る。

その原動力には、途中で亡くなる主人公のお母さんの発言にヒントがある。「人にはそれぞれ必ず一人一人違うしあわせの形がある。」「しあわせになりなさい。」彼は母の言葉を人生をかけて体現する。彼にとってはたとえどんな姿になっていてもみゆきさんとただ時を過ごすことが彼なりの「しあわせ」なのだ。それは純愛か、自縛か。でも私はどちらであってもいいと思う。思い出が心に火を灯してくれる限り。そしてその灯はラストシーンで、みゆきさんの心にも灯り続けていることが分かる。

もう一つ。どうしても触れたいのが、桐谷健太と浜野謙太が演じる主人公の親友たちだ。原作ではもう少し語られているのかもだけど、どうやら小学校からの親友らしい彼らは、本当に得難い友だ。突然肉親が亡くなり、親類もなく喪主をやるという時に手伝ってくれる友人が私には何人いるだろうか。指輪を一緒に買いに行ってやったり、みゆきさんの真相を伝えにわざわざ大阪まで来たり、主人公・悟に対してこんなに理解があり、友人として大切にしてくれる彼らのような人になりたいと強く思った。

会いたい、あの人と一緒に時間を過ごしたい。人間関係、友情、恋、愛。人生の中で、人と人が会うという過程でしか生まれない素晴らしいものが「アナログ」なものなのかもしれないですね。
Rickyy

Rickyy