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窓ぎわのトットちゃんのnekokatzのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
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最近の映画記録、今週みた「窓ぎわのトットちゃん」のこと。黒柳徹子の同名のベストセラーの映像化で、監督は八鍬新之介。

これは文句なしに見ておいて損はない。
自分は出版当時に原作を読んでいて、また現在の居住地域が舞台の近くなので、大変楽しめた。

ストーリーについては略。戦時の生活を描いたアニメ映画という点では、「火垂るの墓」と「この世界の片隅に」の間をつなぐような作品だと思った。
だが、反戦映画、戦争映画という枠でくくるのも違うかな。さまざまな視点からの読みに耐えうる作品かと思う。

日中戦争から太平洋戦争までの間、東京のインテリ家庭の生活が面白い。
とにかく劇中では、子供の目から見たモノを映し、言葉による説明は極力省かれている。
例えば空になった犬小屋と首輪のワンカット。ロッキーがどうなったのか、大人が説明してあげて下さい。

アニメーション表現という点では、劇中にスタイルの違う3つのイメージシーンがあったりとなかなか攻めている。
キャラ作画も良いのだが、自分が圧倒されたのは美術と美設。かなりの手間をかけて当時を再現していて、しかも良い絵。素晴らしいです。
「ART OF トットちゃん」は是非出版してほしい。

太平洋戦争の開戦後、多動気味なトットちゃんもやや成長し、身近な死も経験した終盤。ADHDマジックが消えて世界から色が抜けたのか、それとも戦争で社会がおかしくなったのか、渾然一体と並列に描かれるのが圧巻。

以下余談。自分の近所なので身近な風景も。北千束駅や洗足池のお祭り、浄真寺の仁王像とか。あの川は流れていた頃の九品仏川ですよね。
オーケストラの練習場は、上物は無くなっているが駆体はそのまま病院になっているそうだ。

ポスタービジュアルにもなっている二人が登った樹。
主人公が成長した終盤、この樹も大きくなって花をつけて、藤の木だと分かる。
トモエ学園って藤の木が有名だったそうですね。その一部が、音大幼稚園の園庭に受け継がれているのだそうだ。リトミックつながりなのかな?

あと、トットちゃんが赤松小学校を1年で中退した後、すぐさまトモエ学園に辿り着くのが、黒柳朝が偉いというか、東京のプチブルインテリ恐るべしですよ。
発達障害という言葉も特別支援学級もない頃は、家庭毎の文化資本の差がその後を決めてしまうよな〜、と。

さらに余談。黒柳徹子本人が健在のうちに、こういう幸せな映像化がされたのは大変良い事だと思う一方で、
興行の面では「この世界の…」の半分にも達しないと予想。
そういう「小さく産んで大きく育てる」ロングランは、東宝には無理なのだ。もったいないね。
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