このレビューはネタバレを含みます
「その事実が面白いんだよ」
𠮷田恵介自身が『空白』に出てきたような無神経なマスコミを掘り下げてみたかったと言っていたが、今回はマスコミ側の視点を取り入れることで、何がそうさせるのか、報道とはどういう性質を持つのかを描いている。
マスコミ側の視点を担う中村倫也演じる砂田が何に悩むかというと、視聴率至上主義のテレビ局の姿勢と自身が持つ職業倫理との間で葛藤するというのもあるのだが、報道そのものが持つ加害性に気付いてしまうというのが大きい。砂田は事実を伝えたいんだと言うが、その事実が見ている側の興味や好奇心を煽り、報道という形で世間に広く流布することでそれは加速度的に大きくなっていく。このジレンマに悩む。
しかし沙織里にはこれが命綱になっている。マスコミで取り上げられるたびに攻撃され、それに辟易しながらも、風化するよりはマシということでマスコミにすがる。そして次第にマスコミが用意した娘を誘拐されたかわいそうな母親というナラティブに同化するようになる。ロングインタビューのシーンなんかはそれが顕著に出ていた。そして虎舞竜…。誰しもが脳裏に虎舞竜が浮かんだと思う。
背景で誰かが怒っているという場面が何か所かあった。ああいった些細な怒りを人々は抱えていて、その矛先に沙織里がいるかもしれないという表現なのかな?知らんけど。
『空白』では娘の死という結果からの再生が描かれていたけど、今回は誘拐という宙ぶらりんの状態なので、この先どうなるのか分からない。それでもその日が来るまでは𠮷田恵介が言う光を感じながら生きていくのだろう。
石原さとみの何かを変えたい変わりたいという熱量は観ていて伝わってきたし、それと同時に不安も抱えているというのも沙織里というキャラクターとマッチしていた。