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PERFECT DAYSのtobioのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

文化住宅(メゾネット式アパート)今でもあるんだな、懐かしい。しかし平山は2階部分しか生活には使っていない。どこかから引っ越してきて、持ち物の殆どは一階の一部屋に閉じ込めてある。照明は裸電球、寝る時には読書、テレビはない。食事は外で済ませ、畳に薄い布団を敷き朝にはちゃんと片付ける。仕事に真摯に取り組み、行きつけの飲み屋と風呂屋で顔見知りとゆるい交流を持つ。いらないものを削ぎ落とし、自分の好きなもの、楽しいと感じる時間は確保する暮らし。聴いている音楽はかっこいいし、読んでいる本も自分らしい。木と木漏れ日をフィルムカメラでノーファインダー撮影し、決して安くはないであろう同時プリント(現像+焼き付け)代とフィルム(モノクロ!)代を定期的に払い続ける。淡々とした描写なのに、何者なんだこの人、と疑問がつのる。
姪と妹が登場して、裕福であっただろう過去、父との衝突などが垣間見えるが、彼のスタンスは変わらない。しかし飲み屋のママの元夫との会話には心揺さぶられたよう。平山にも妻や子がいたのだろうか。
影に影を重ねたら、きっと濃くなるはず。
平山はそう思いたい。
同じことを繰り返しながら、その重なりが自分を新しく形づくっていくと考えているのだろう。
同時に、夜明けが来たら、また新しい1日が始まるという歌詞に涙を流す。
古い自分が消え、新たに自由に生き直す、まさに彼の境遇。だが、彼の表情に晴れがましい感情はない。この年齢になるまでのあまりに多くの葛藤と諦めが、今の自由の後ろに控えているからか。
細かく決まったルーティンは、いろんなことを思い出させないための装置なのかもしれない。

しかし、いつの間に四角かった画面比率がワイドになったんだろう、気づかなかった。姪っ子が来たあたり?それともカセット棚と本棚が映り込んで、彼の文化的背景の豊かさに唸らされたあたり?
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