マカ坊

哀れなるものたちのマカ坊のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
この冬1番のデートムービーではないでしょうか。

フランケンシュタイン、メトロポリスから果てはプリティウーマンまで横断するかのような、キッチュでキャンプなヨルゴス・ランティモス一流のオデュッセイア冒険譚。たまらん。

ベラの"成長"を体現するエマ・ストーンの豪胆さは言わずもがな、マーク・ラファロのペラさったらもう。アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルーの人とほんとに同一人物?

19世紀後半の世界観に基づきながらも、レトロフューチャリスティックなサイファイロープウェイや、ヴィクトリア調と60's〜70'sポップセンスを掛け合わせたような衣装など、細部の作り込みは意図的に今作の時代性をはぐらかす。それはつまりこの作品で語られる"困難さとの対峙"が、特定の過去の追憶なのではなく、今なお続く普遍的なストラグルの歴史であることを表象しているようでもある。

ジャースキン・フェンドリックスによる、蝋細工の宮廷音楽のような魅惑的かつグロテスクな質感を湛えるスコアも圧倒的。ダンスシーンに一瞬映るよくわからん管楽器は彼のスケッチから生まれたらしい。

そう、ダンスシーンね。ダンカンのフロアへの上がり方もいいけど、その例の楽器が鳴り始めてからダンス始めるまでの強引ながらもスムースな流れが最高。このダンスシーンは撮影に1週間ほど掛けたそうな。2人ともいい顔で踊っとる。

照明とか露出とかどうなってんねんと訝しむほどの振り切った撮影も、絶妙のバランスで不快の境界線スレスレを闊歩している。なんでも8mm魚眼レンズの広角が極端すぎて、カメラを覆うようにセットを組まなければならなかったらしい。あのヴィクトリア調の豪勢なセットを。

あの客船も実際にセット組んで撮影したというのも驚きだが、取り囲む幻想的な海と空は巨大なLEDパネルで表現されているとの事で唖然。グリーンバックとかLEDとかは中途半端なリアルさを取り繕うためじゃなくて、今作のような圧倒的な非現実を押し出すための技術として用いられた時にこそ効果的なのだなと感心した。

無垢なる者の目を通して語られる「人類史・女性史地獄めぐり」のような今作のストーリーは、戯画化されてはいても殊更に真を穿つ。10年以上前から温められてきた企画がようやく完成に漕ぎ着けられたのも、観客や世の中が「女性の自由」について当時より意識的になりはじめているからこそなのだろう。

男どもが規定する「良識ある社会」からはみ出していくベラの率直さに、ヘテロセクシュアルのシス男性である私はマックスのように戸惑いながらも頼もしさを感じた。

男達からの視線の焦点に浮かび上がる虚像としての自分など意識する事もなく、自らの意志で選択し決定する彼女の張り手は痛快。

しかしまぁ出会う男出会う男漏れなく全員愚かで、そのほとんどが脳ではなく下半身で物事を認知しているというのをこれほど浅ましく見せられると流石に自分はここまで愚かではないと思いたくなる…笑

愚かな男達が「これぞ世の理でござい」と振りかざすペニスもピストルも結局のところ彼女にとっては支配と抑圧の"しんぼる"でしかなく、発射されるものがスペルマだろうと鉛玉だろうと、そこには知性も品性も宿らない。

強引なカタルシスもといオーガズムをもたらすラストシークエンスの解釈は、ここまでの冒険を覗き見た観客達それぞれの道程を信頼し、未来へと大いに開かれている。


       🫨🫧
マカ坊

マカ坊