マカ坊

異人たちのマカ坊のレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.5
どこまでもパーソナルな「寄る辺なさ」を、アンドリュー・ヘイならではの親密さで見つめる事でのみ浮かび上がる普遍性。

彼の作家としての魅力の一つは、人が人と出会って共に過ごすことの尊さを、その手触りごとキャプチャーしてしまえる点にあると思う。彼の描く世界では、物語を駆動させるために会話が為されるのではなく、本当にそこで生まれたとしか思えない会話が物語を紡いでいく。

また電車やエレベーターの窓などを含めた「鏡」の使い方が毎度の事ながら非常に丁寧で印象的。そして内と外の境界としての扉。幻想的な光が差し込むタワーマンションの非現実感も、位相は違えど同じ孤独を抱える2人の精神世界としての「部屋」を規定する。

原作から追加されたクィア性に身を寄せながら、これから親になる自分としては特に「育児」という観点から心の汗をかいた。

自分が生まれた三十数年前と比べても、「子を持つ事」の意味が大きく変わってしまったこの時代において、どんな子育てができるんだろう。およそ自分の思った通りになるはずのない、一人の人間としての我が子とどんな言葉を交わせるのだろう。

劇中の登場人物は皆、柔らかく親密なスキンシップと同じくらい、言葉でのコミュニケーションを大切にする。あらゆる規範や人々の意識が劇的に変化していく中で、「背中で語る」なんて格好つけただけの大人になるんじゃなく、不器用でもまずは会話で応えてあげられる親になりたいと改めて思った。部屋から出るのを待つのではなく、部屋に入っていいか?と尋ねられる大人に。
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