Bitdemonz

月のBitdemonzのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.5
実在の事件から着想を得て作られた同名小説原作の映画化で、原作は未読。

「生産性のないモノ(者)」は“不必要”であるとする意識の根底には安直な数値崇拝や徹底的な成果主義から起因するライトな優生思想、自己責任論などとも紐づく「見える世界」だけを重視した“様々な個人”にとっての効率化が加速して辿り着いた現代の潮流とリンクしたものがあり、登場人物である“さとくん”が語る「本来救うべき人間が救われていない」という社会構造の歪さは一見ある種の正当性をも感じさせ、同時に“社会にとって機能していない(と彼自身が認識した)人を介護する自身そのものも、社会的には本来不必要な存在であると認識してしまうロジックから彼は無自覚に(寧ろ善意的に)凶行に及んだのだ。

人間一人ひとり多様なバックボーンから形成され、その関わりを個の意志で(身勝手に)断ち切ることは許されざるべきとされているが、社会は“その声”を同様の手段で抹殺した。勿論作品ではその顛末まで描かれてはいないが、その「許されざるべき」という基準は何処から来るのか、それ自体が自分をこの「見える世界」に留まるための欺瞞ではないのか?そうしなければ、今度は自分がそこから“排除”されてしまうかもしれない……

この作品ではその「許されざるべき」とする道徳観すらにも揺さぶりを掛け、他人の糞尿を浴びない快適な場所から吐き出す“綺麗事”に対して観る者にも自身と向き合うことを要求してくる。全ての登場人物は合わせ鏡のような配置であり、観る者含めてその全てが漏れなく「人」である事を改めて考えさせる。

必要とされる事で生きがいを見つける人も居る一方で必要とされない人は何処へ行くのか、そうした人は果たして「生きている」と言えるのか。どちらにせよ、良くも悪くもそれを判断する当人以外からすれば全てが独善的とも言えるが、絶望と希望という究極の相対をもって様々な矛盾を孕んだまま迎える終焉の先に何を感じるのか。

表現の方法についての賛否があるのも然りだが、この重厚でセンシティブなテーマに果敢に取り組み公開された点についてはとても意義のある事だと思うし、願わくばこの作品自体が社会から“隠されて”しまわないことを祈りたい。



全体的にホラー的な演出が目立つので、テーマとの向き合い方として如何なものか?と思う節もありましたが、出来るだけ多くの人に見てもらうという意味においてはとてもライトな入口として良かったような気もします。(説明が過多とも取れますが、昨今の視聴層の傾向を考えるとこの間口の広さも丁度良いのではないかと)

特にそのホラー的なという点で、個人的ですが、後半の洋子とさとくんが対峙する場面は「エクソシスト3」を思い出してしまって、“本質的”なところで非常に近しいものを(勝手に)想起してしまってたんだと思います。

あとはやはり、何かを「生み出す」という責任について、それとどう向き合っていくのかといった事や「認められたい」という事が今の社会性と”生きにくさ”ともリンクしている辺りなども胸を締め付けられる思いでした。

パンフレットは非常に読み応えがあるボリュームで、制作過程から監督、キャストのインタビューからレビューまでかなり充実した内容で良かったです。
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